ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

先週から所得税の確定申告がいよいよスタートしました。タワーマンション節税の緊急連載で少し間が空いてしまいましたが、今週からまた確定申告特集を再開します。今回は前回の国外財産調書の続きになります。前回分は下記のアドレスからご覧になれます。

【確定申告特集その1】国外財産調書と財産債務調書パート1
http://souzoku-sapporo.jp/%E7%A8%8E%E5%88%B6%E6%94%B9%E6%AD%A3/%E3%80%90%E7%A2%BA%E5%AE%9A%E7%94%B3%E5%91%8A%E7%89%B9%E9%9B%86%E3%81%9D%E3%81%AE%EF%BC%91%E3%80%91%E5%9B%BD%E5%A4%96%E8%B2%A1%E7%94%A3%E8%AA%BF%E6%9B%B8%E3%81%A8%E8%B2%A1%E7%94%A3%E5%82%B5%E5%8B%99/

前回は年末時点で国外財産の時価等合計額が5,000万円を超えるなど一定の要件を満たした場合は国外財産調書を提出しなければならないことをご説明しましたが、ここで一番難しいのは国外財産の価額をどのように算出すれば良いかということです。最終的には前回お話ししたように邦貨換算するわけですが、まずは外貨ベースで算出しなければならないケースもあるかと思います。

国外財産の価額は原則として時価で算出します。ではその時価はどのように出せば良いのでしょうか。不動産等の場合は専門家による鑑定評価額になり、上場株式等の場合は、例えばニューヨーク株式市場に上場している株式であればその年末最終営業日の最終価格が時価になります。上場株式等の場合はともかく、不動産等の場合はいちいち鑑定してもらうのは非現実的ですよね。

そこで時価の算定が困難な場合は時価に準ずるものとして見積価額でも良いことになっています。不動産等の見積価額の算出方法はいくつか定められていますが、例えばその不動産が所在する国等で課せられる固定資産税に相当する租税の課税標準額や、取得価額を物価変動率で時点修正した価額(建物の場合は減価償却後の価額)などが挙げられています。また、相続税や贈与税の算出で用いられる財産評価基本通達により評価した価額に拠ることも認められています。

ところで、国外財産が共有財産ということもあろうかと思います。持分が決まっているのであればそれに従えば良いのですが、決まっていないか不明確である場合は各共有者の持分は等しいものとして計算します。したがって2人で共有しているのであればそれぞれ2分の1、3人であればそれぞれ3分の1を共有財産全体の価額に乗じて算出することになります。また、国外財産の中に未分割の相続財産がある場合は法定相続分でそれぞれ按分することになります。

また、国外財産を借入金で取得することもあるかと思いますが、時価または見積価額から借入金を差し引くことはできませんので注意してください。より詳細については下記の国税庁ホームページに掲載されている「国外財産調書の提出制度 (FAQ)」もご覧になってください。

国外財産調書制度に関するお知らせ
http://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/hotei/kokugai_zaisan/

このように、国外財産調書の提出に関しては結構な手間がかかるのですが、それではそこまで苦労して提出したら何か良いことがあるのでしょうか。また逆に出さなかったり、出したとしてもいい加減に記載して出した場合は何か悪いことがあるのでしょうか。

まず出した場合の良いことからご説明しましょう。この場合は、後でその記載した国外財産に係る所得税(復興特別所得税を含む。以下同じ。)または相続税の申告漏れが生じた時であっても、過少申告加算税または無申告加算税が5%軽減されることになっています。

通常過少申告加算税は10%、無申告加算税は15%ですから、それぞれ5%または10%に軽減されるということですね。これを提出のインセンティブ(動機づけ)にしているわけです。ただ、正直なところ国外財産調書に記載したのであれば、その後所得税または相続税で申告漏れが生じることは考えにくいとは思われます。

怖いのはむしろ出さなかった時の悪いことですね。これは逆に所得税の過少申告加算税または無申告加算税が5%加重されることになっています。重要事項の記載がないか不十分であった時も同様です。したがって、過少申告加算税は原則として15%になり、無申告加算税は20%になるというわけです。なお、加重に関しては相続税及び被相続人の準確定申告等に係る所得税は対象外となっています。

また、1年以下の懲役または50万円以下の罰金という罰則も用意されていますので、国外財産調書の申告漏れや記載漏れ等がないよう十分注意してください。申告期限は所得税と同じで、平成27年(12月31日現在)分は平成28年3月15日(火)となっていますが、国外財産調書は所得税の確定申告義務がない方でも要件を満たせば提出義務がありますので、その点にも注意してください。

このように国外財産調書の作成・提出は非常に面倒な作業になってしまうのですが、国外財産が5,000万円を超えているのであれば将来的に相続税が発生する可能性は高いですから、これをきっかけとして今のうちから財産の棚卸しをしておくという考え方もあるかと思われます。ご子孫に余計な負担をかけないことも円満な相続を実現する上でとても大事なことです。そのように発想の転換をして頂ければ、とても有意義な作業になるのではないかと思います。

国外財産調書については以上になります。来週は引き続き確定申告特集として今年からの新制度である財産債務調書について書く予定です。次回もぜひご覧ください。

それでは今週はこの辺で。
また来週お目にかかります。