ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

少し旧聞に属する話になりますが、今年はフィギュアスケートの浅田真央選手、女子プロゴルフの宮里藍選手、将棋棋士の加藤一二三九段と、ジャンルは違いますが一時代を築いた方々の引退が相次いでいます。このようなトップレベルで長く活躍した人たちの共通点として、いつ誰に対しても態度が変わらない、決して偉そうな言動をしない人間性の高さといったものを感じます。元プロ野球選手の松井秀喜さんなどもそうでしたね。

だからこそこういった人たちは決して現状に甘んじずに更なる高みを目指すのだと思いますし、人間力に惹きつけられてサポートを申し出る人も沢山いて、それがまた競技を続ける上での大きな武器になるのだと感じます。私もこういった人たちに少しでも近づけるように見習いたいと思います。皆さん、本当にお疲れさまでした。引退後のご活躍にも期待しています。

それでは本題に入って参りましょう。今回は10回に渡って連載してきた「税務調査と附帯税」のいよいよ最終回になります。前回に引き続いてまとめとして、相続対策・節税の留意点等についてお話ししていきたいと思います。一点豪華主義的な相続対策・節税の問題点として一番目に挙げられるのが、税務調査での否認リスクが非常に高いということを前回ご説明しましたが、二番目としては税制改正のリスクが挙げられます。

相続対策・節税を行っても、それが実現するのは、つまり相続が開始するのはいつになるかはわかりません。人はいつ亡くなるかわからないからです。そしてその間に税制改正が行われて、せっかくの相続対策・節税が効果を失ってしまう可能性があります。実際これまでも、流行りの節税策は税制改正によって度々封じられてきました。

そうなると一点豪華主義的な相続対策・節税の場合は完全に水泡に帰し、また一からやり直しということになります。それまで相続対策・節税に費やしてきた時間や費用が全て無駄になってしまうだけでなく、状況によっては、そもそもやり直しが効くかどうかすらわかりません。そういった意味でも一点豪華主義的な相続対策・節税はあまりにもリスクが大きいのです。

こうしたリスクを回避するためには安全・確実な相続対策・節税を複数組み合わせてリスクを分散することをお勧めしています。安全・確実なものを複数組み合わせれば、その全てが税務調査で否認されることもないでしょうし、税制改正で全て無駄になることもまずないでしょう。当たり前のことと感じられるかもしれませんが、これが実際にはあまりなされていないのです。地味で面倒に感じてしまうからでしょうか。どうしても派手な打ち上げ花火的なものを追い求めてしまう傾向があるようです。

しかし長年の積み重ねで国税庁からもお墨付きが出ているような安全・確実な相続対策・節税をせずに、不確実で危うい相続対策・節税に走るのはあまりにももったいないと思います。そして面倒でも複数組み合わせておけば、仮に税務調査や税制改正で一つダメになったとしても残りは大丈夫ですから、ダメージを最小限に抑えることができます。

ただ適切な相続対策・節税を複数組み合わせるというのはなかなか難しい作業で、一般の方には非常にわかりにくいのも事実ですので、相続に強い税理士等の専門家のアドバイスは必ず受けてもらいたいと思います。アドバイスに伴う報酬はかかりますが、それ以上のメリットを享受することができます。

それと相続税の申告の話になりますが、書面添付制度の活用もお勧めしています。書面添付制度とは、申告書の内容を詳細に説明する書面を申告書に添付できる税理士法上の制度で、書式が決まっていて税理士だけが作成することができるものです。これを出しておくといきなり税務調査に来ることは基本的にありません。税務署は税務調査の前にその書面を作成した税理士から意見聴取をする決まりになっているからです。そして意見聴取だけで終わり、税務調査が実施されないことも多いです。相続税は税務調査が非常に多い税目ですから、これは大きなメリットと言えます。

別にやましいことがなければ税務調査が入っても良いのですが、1~2日間の実地調査に加えて、事前事後の準備や処理なども併せると税務調査を受けること自体がかなりの負担になりますので、税務調査がないのであればそれに越したことはありません。また、申告書は数字の羅列ですからこれだけではよくわからない場合もあり、それが税務調査の動機・誘因になるのですが、添付書面で詳細を説明しておくとそこで疑問が解決することも多いですから、税務調査やそもそも意見聴取すらないことが大半です。

また、相続人の皆さんにとっても申告書だけではよく理解できないことも、添付書面により詳細を理解することができます。税理士はあくまでも税務代理人ですので、申告者であり納税者でもある相続人の皆さんが理解し納得しない限りは、申告書を提出するわけにはいかないと思いますが、そういった意味でも添付書面はとても有意義です。それに記録をきちんと残すという意味合いもあります。

私も相続税の申告では必ず添付書面を作成し、申告前に相続人の皆さんにご説明してから申告書に印鑑を頂くことにしています。書面添付制度は相続税の申告ではまだ10%余りしか利用されていませんが、このように非常に意義深いものですので、相続税の申告を税理士に依頼するときは必ず添付書面も作成してもらうようにしてください。税理士の仕事は申告書を出して終わりではなく、その後のフォロー・アフターサービスもとても重要なものだと思います。

「税務調査と附帯税」の連載は以上になります。次回からまた相続に関する新たな連載を開始しますので、また是非ご覧ください。よろしくお願いいたします。

それでは今週はこの辺で。
また再来週お目にかかります。