ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

さっぽろ雪まつりも無事終了しましたが、今度の日曜日には冬季アジア大会が札幌で開幕します。先日はスキージャンプワールドカップもありましたし、今月は冬のビッグイベントが目白押しですね。カーリングやアイスホッケー・フィギュアスケートの人気が特に高いようです。寒さを考えると屋内競技の方が観戦しやすいですしね。ただ、防寒をしっかりすれば屋外競技も迫力満点で面白いですよ。アルペン競技などチケットが無料のものもありますので、お時間のある方はぜひ足を運んでみてください(下記写真は、私がソルトレイクシティオリンピックで男子回転を現地観戦した時のものです)。

それでは本題に入って参りましょう。今週は平成29年度税制改正大綱のいよいよ最終回となります。今回は非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予・免除制度(以下「事業承継税制」と言います。)の見直しについてです。前回・前々回は非上場株式等の評価の見直しについて書きましたが、評価の見直し後もやはりある程度の相続税・贈与税の負担を覚悟しなければならないことに変わりはありません。しかしこの事業承継税制を使えば相続税・贈与税の納税のかなりの部分が猶予され、一定の要件を満たしていれば最終的にその猶予された相続税・贈与税の納税が免除されます。

この制度は平成20年に中小企業経営承継円滑化法の制定とそれを受けた租税特別措置法の整備によりスタートしました。ただ、要件が厳しすぎて使い勝手が悪いなどの指摘もあって思ったほど利用が進まず、平成27年からは親族外承継にも適用可能になるなどの大改正があり、以前よりも使いやすい制度になってきました。そして今回もより便利な制度になるような改正がいくつか入っています。それでは具体的に内容を見ていきましょう。

まず第一に、雇用確保要件が2年前に引き続き緩和されました。この雇用確保要件とは、納税猶予を受けるためには相続税・贈与税の申告期限から5年間雇用(常用使用従業員数)の8割を維持しなければならないというものです。これ自体は事業承継税制ができた当初と変わっていませんが、その解釈が徐々に緩和されてきています。当初は申告期限から1年ごとに毎年雇用状況をチェックし、一度たりとも8割を維持できなければその時点で納税猶予を打ち切るという厳しいものでした。

しかしそれではリーマンショックのような景気変動があって一時的に雇用を減らした場合でも納税猶予が打ち切られてしまい、多額の相続税・贈与税を納めなければならなくなってしまいます。従業員の多い会社ならともかく、少人数の中小企業では一時的に8割を切ることは十分あり得ることで、そのリスクを考えると事業承継税制の利用に踏み切れないといったケースも多かったように思います。

そこで平成27年からは5年間の平均で8割を維持できれば良いということになりました。これだと一時的なリストラで8割を切ったとしても、景気回復で再び雇用を増やしたような場合は救済され得ることになりました。しかしまだ大きな問題が残っていました。それは8割の計算をする際の小数点以下の端数が切り上げになっているということです。具体例で見てみましょう。

例えば相続税・贈与税申告期限(事業承継税制適用)時点での常用使用従業員数が4人だったとしましょう。そうすると現行では4人×8割=3.2人→切り上げて4人という計算になり、実質的に雇用を100%維持しなければなりません。9人だとしても9×8=7.2→8人で、1人しか余裕がありません。そこで今回の改正では切り上げから切り捨てへと変更されることとなりました。さきほどの例だと改正後はそれぞれ3人、7人ということになります。これでも一人当たりの比重が大きい中小企業にとって厳しいことに変わりはありませんが、より現実的な改正になったものと思われます。

次に、贈与税の納税猶予制度と相続時精算課税制度の併用が認められることになりました。これはちょっとわかりにくいのですが、自社株を生前贈与して事業承継税制の適用を受けた場合において、その後、万が一雇用確保要件等をクリアすることができず納税猶予が打ち切られてしまった時に、現行ではまともに暦年課税され、巨額の贈与税を納税しなければなりません。このリスクを緩和するため、もし納税猶予が打ち切られてしまった場合でも相続時精算課税の適用を受けることができるようになりました。これにより、暦年課税に比べて贈与税の課税が軽減されることになります。

本当は相続時精算課税についても説明すると良いのですが、長くなってしまうので詳しいことはまた後日機会を改めて書きたいと思っています。ここでは暦年課税に比べて相続時精算課税の方が贈与税の負担は少なくて済むということを押さえてもらえれば十分です。

最後に、事業承継税制を最初に適用した際には非上場の中小企業だった会社が、その後成長して中小企業ではなくなったり、上場企業になるというケースもあり得ると思います。これまでは贈与税の納税猶予を適用し、その後贈与者(先代経営者)が亡くなった際に、もし中小企業でなくなったり上場企業になっていたりした場合には、相続税の納税猶予に切り替えることができず、受贈者(後継者)にまともに相続税が課税されることになっていました。

しかしこれでは後継者の経営意欲を阻害し、中小企業の健全な発展を妨げるとの指摘がありました。そこで贈与税の納税猶予適用時に非上場の中小企業であれば、その後相続税の納税猶予切り替え時にはその要件は問わないこととなりました。

なお、今回の改正は平成29年1月1日以降の相続・遺贈・贈与から適用されますので、非上場株式等の評価の見直し同様、既に適用期間は始まっているということになります。6回に渡って連載してきた平成29年度税制改正大綱の締めくくりとなりました事業承継税制の見直しについては以上になります。いよいよ今週16日からは確定申告が始まります。当ブログでも確定申告特集と題して来週から連載を開始する予定です。次回もぜひご覧ください。

それでは今週はこの辺で。
また来週お目にかかります。