ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

先週今週と暑かったですね。札幌では7月29日から8月7日まで10日連続で最高気温30度以上の真夏日を記録しましたが、これは68年ぶりのことだそうです。また、最低気温が25度以上の夜を熱帯夜と言いますが、札幌では7月29日の夜から3夜連続で熱帯夜となり、これは観測史上初めてのことで、これまでは2夜連続すらありませんでした。7月29日の夜は最低気温が27.4度で、これも観測史上最高となりました。北海道でこれほど寝苦しい夜が続くのは私も記憶にありません。北海道はエアコンがない家が多く、我が家も例外ではないのでなかなかつらいところでしたが、一昨日からの雨で気温も下がりホッと一息ついたところです。皆さんも夏バテには十分お気をつけください。

さて、それでは本題に入って参りましょう。今回は遺留分制度に関する見直しについてです。まずは遺留分とは何かについて例を挙げてご説明いたしましょう。

例えば、相続人が子ども2人、遺産は時価8,000万円の土地と仮定します。法定相続分は2分の1ずつですから、それぞれ4,000万円分取得する権利があります。ところが被相続人である親が遺言を残していて、一方の子ども(乙とします。)に全ての遺産を相続させるという内容だったとします。そうすると、もう一方の子ども(丙とします。)には取り分がありません。これは相続人間で非常に不公平な状態ですね。この不公平を緩和するのが遺留分制度です。遺留分は原則として法定相続分の2分の1ですから、この場合は1/2×1/2=4分の1になります。したがって丙は乙に対して2,000万円分の遺産を取得する権利を主張できるわけです。

それでも乙が6,000万円、丙が2,000万円と不公平な状態は残りますが、被相続人である親の遺志もある程度尊重する必要がありますので、このような形で折り合いをつけるわけです。この考え方自体に大きな変更はありません。それでは今回の民法改正で何が変わったのでしょうか。

まずは従来の民法で見ていきます。従来は丙が乙に対して遺留分減殺請求を行うと、遺産そのものが共有関係となりました。上記の例だと土地について乙が4分の3(6,000万円相当)、丙が4分の1(2,000万円相当)の持分で共有となります。しかし共有になるとその財産の利活用等については原則として共有者全員の合意が必要になります。つまりその土地を貸したり売ったりする場合等は、乙と丙の両者で合意しなければなりません。両者で意見が一致すれば問題ないのですが、どうしても一致しない場合はそのまま塩漬けになってしまいます。また、その土地が乙の事業用や居住用であった場合は、丙からその持分(4分の1)について高額での買取りを求められるなど、現物が共有関係となることによる紛争を招く恐れもありました。

そこで改正民法では遺留分減殺請求を遺留分侵害額請求と改め、遺産そのものを共有とするのではなく、金銭で解決を図る方法に改めました。つまり上記の例では、乙が丙に現金2,000万円を支払うことによって、土地の名義そのものは乙単独のままで維持できるようになりました。なお、この場合において乙がすぐに現金を用意できないこともあり得ますから、そのときは乙が裁判所に支払期限の許与(支払を一定期間待ってもらうこと。)を請求することができます。

ところで相続税の申告で何か変わったところはあるのでしょうか。結論としては今まで通り変更はありません。つまり、当初乙は遺産取得額8,000万円(便宜上、相続税評価額は時価と同額とします。)で申告し、その後丙から遺留分侵害額請求を受けた場合は、その金額(2,000万円)が確定した日から4か月以内に更正の請求を行うことによって、相続税の還付を受けることができます。一方丙は2,000万円の取得が確定した時点で期限後申告を行うことになります。

税務上変更があるのは、譲渡所得税の申告が必要になるケースが生じ得る点です。金銭で解決する場合は特に問題はないのですが、上記のケースで乙が現金を用意することができず、結局従来通り現物を分割したとします。そうすると改正民法では本来金銭を支払うべきところを現物で支払うという代物弁済という形になります。代物弁済も所得税法上の「譲渡」になりますから、この場合乙は譲渡所得税の申告が必要になるというわけです。考え方としては、土地の4分の1を2,000万円で譲渡し(譲渡所得税の申告が必要。)、その譲渡代金を丙に渡したと考えればわかりやすいかと思います。

取得費は被相続人のものを引き継ぎますから、被相続人がその土地を1,000万円で取得していたとすると、譲渡所得税の申告では譲渡収入2,000万円-取得費1,000万円×1/4=譲渡所得1,750万円となりますので(便宜上、譲渡費用はないものとします。)、譲渡所得税及び住民税は1,750万円×20.315%=3,555,100円(百円未満切捨)となります。金銭で解決する場合に比べ、これだけ負担が増えることになりますので、注意が必要です。以上の遺留分制度に関する見直しは、令和元年7月1日以後の相続に適用されます。

遺留分制度に関する見直しについては以上になります。次回も引き続き改正民法(相続法)と、それに関連する税制改正になりますので、またぜひご覧ください。

それでは今週はこの辺で。
また再来週お目にかかります。