ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

お盆も終わり、また忙しい日常が戻ってきましたね。
北海道では小学校の夏休みも終わり、また子どもたちが元気に学校に通う姿も見られるようになりました。
こちらのブログも今週から本格的に再開しますので、またよろしくお願いいたします。

それでは先週予告した通り、この7月1日から適用開始となっている国外転出時課税制度が今日のテーマです。タイトルだけだと国外転出(海外移住)の予定がある方だけが対象になるように見えますが、実はそうではありません。今日から3回に分けてその辺りも含めてこれから書いていきたいと思います。

まずこの制度の対象者ですが、①原則として国外転出時あるいは贈与時または相続開始時において合計1億円以上の対象資産(上場株式、非上場株式、投資信託、国債、地方債、社債等)を所有している②国外転出あるいは贈与または相続開始前10年以内において国内に5年を超えて住所又は居所を有している、という2つの要件を満たしている人が対象になります。

1億円以上のいわゆる金融商品を保有している人はあまり多くはないかと思いますが、投資を中心に資産形成をされている方であったり、あるいは企業経営者であれば自社株も対象資産に入りますので、この制度の対象になる可能性が出てきます。
ただし、海外暮らしが長い人は②の要件により対象者から外れることもあり得ます。

そして、①対象者が海外への移住や転勤などで国外に出国した場合(以下「非居住者になった場合」といいます。)②対象者が海外に在住している親族等(以下「非居住者」といいます。)に対象資産の全部又は一部を贈与した場合③対象者の方がお亡くなりになり、国外に居住している相続人等(以下「非居住者である相続人等」といいます。)が相続または遺贈により対象資産の全部又は一部を取得した場合、以上3つのいずれかに該当したときに、その対象者に対して対象資産の含み益に係る譲渡所得税が課せられることになります。

いかがですか?ここまでおわかりになりましたか?結構複雑ですよね。そこで今回は①対象者が非居住者になった場合に絞ってお話ししていこうと思います。
②対象者が非居住者に対象資産の全部又は一部を贈与した場合と③対象者の方がお亡くなりになり、非居住者である相続人等が相続または遺贈により対象資産の全部又は一部を取得した場合については、次回及び次々回にそれぞれ書くつもりです。

海外に移住しただけで税金がかかる?そんなばかな!、とお思いになる方もいらっしゃるかもしれません。
本当にそうですね。なぜ株を売って儲かったわけでもないのに譲渡所得税がかかるのでしょうか?

それはこういうことなんです。
つまり、もし資産家が株を持ったまま海外に移住したとします。
そして移住した後に移住先の国でその株を売ったとすれば、その儲けに対しては日本ではなくその移住先の税金がかかることになります。

株などを売った儲け(利益)のことをキャピタルゲインと言うのですが、実はキャピタルゲインには課税しない国・地域があります。スイス・ニュージーランド・シンガポール・香港などがその代表例です。
したがって平成27年6月30日までは、そうした国または地域に移住すればキャピタルゲイン課税を合法的に免れることができたのです。

そこで国(日本政府)は考えました。なんとかこうした人にもキャピタルゲイン課税ができないものかと。こうしてできたのが今回の国外転出時課税制度です。

実は資産家への課税で困っているのは日本だけではなく、どこの国も同じ悩みを抱えていて国際的な租税情報の交換や課税を強化する方向にあります。
この国外転出時課税制度も既に同様の制度がアメリカ・カナダ・イギリス・フランス・ドイツなどの欧米諸国等で実施されており、日本もそれに倣ったというわけです。

そうはいっても実際には株などを売ったわけではないので手元にお金が入ったわけではありません。こうした含み益(未実現利益ともいいます。)に課税すると納税資金に窮する場合もあります。

そこで納税猶予の仕組みも併せて導入され、①出国時までに納税管理人を定めて届け出ること②確定申告期限(原則として出国翌年の3月15日)までに確定申告書を提出するとともに担保を提供していること③それ以降は毎年原則として3月15日までに継続適用届出書を提出すること④株などの対象資産を引き続き保有していること、以上4つの要件を満たしている場合は5年間(10年間への延長も可能)納税が猶予されます。

納税管理人という言葉は聞き慣れないかと思いますが、海外に移住する等により非居住者となった場合に、国内に所有している不動産等からの収入があり引き続き日本で所得税等を納税しなければならないときなどは、この納税管理人を選任して、日本国内での確定申告等を代理でしてもらう必要があります。
この納税猶予の適用を受ける場合も納税管理人の選任・届出は必須になります。納税管理人は日本国内の居住者である親族になってもらうことが一般的ですが、税理士などに依頼することも可能です。

ただしこの場合も、納税が猶予されるだけで免除されるわけではありませんので、その点はお間違えのないようにお願いします。納税資金を貯めるまでのいわば「時間稼ぎ」が出来るだけです。
また、不動産などの担保の提供が必要な上に、納税猶予の期限(5年または10年)が過ぎれば利子税(平成27年は年利率1.8%)も併せて納税しなければなりませんので、納税資金に困っていないのであれば納税猶予せずにすぐに納めてしまうという選択肢もあり得ます。

なお、5年(期限延長した場合は10年)以内に帰国した場合は、帰国から4か月以内に更正の請求という手続きをとることにより課税が取り消されますので、もし5年(または10年)以内に帰国する予定があるのであれば、納税猶予の手続きをする価値はあるように思います。
ただし、帰国前に株などを売ってしまった場合は、その売った部分についてはその時点で納税猶予が終了し納税しなければなりませんので、ご注意ください。

この5年(または10年)以内の帰国による課税の取消しは納税猶予の適用を受けていなくても可能ですが、納税猶予の適用を受けなければいったんは納税しなければなりませんので(その後帰国時に還付されることになります。)、納税しないで済ませたいのであれば納税猶予の手続きを踏んだ方が良いでしょう。
もっともこの場合も、見込み違いで5年(または10年)以内に結果として帰国できなかったときは納税しなければなりませんので注意してください。

今日のところはここまでになります。
このように海外に移住する予定がある方は少ないかと思いますが、自分は海外に移住しなくても海外に住んでいる親族等に株などを贈与や相続等により譲り渡した場合も、この国外転出時課税制度により贈与者等(譲り渡した人)に譲渡所得税が課税されます。また、その場合は受贈者等(譲り受けた人)に贈与税や相続税がかかるケースもあり、二重の課税を受けることになります。
次回及び次々回はそういったケースを取り上げてご説明する予定です。お楽しみに。

長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
それでは今週はこの辺で。
また来週お目にかかります。