ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

来年(平成28年)の税制改正大綱は明日10日に発表される予定です。報道等を通じて概要の一部は伝わってきていますが、全貌がはっきりするのは明日ということになりますね。来週以降相続に関係する内容を中心に速報し、解説を加えていきたいと思っておりますので、こちらの方もぜひご期待ください。

それでは本題に入って参りましょう。先週に引き続き今年(平成27年)の税制改正で決定された生命保険の課税強化策についてです。平成30年から新しい支払調書制度が始まることとなり、それにより生命保険への課税が一層強化されることになります。

具体的には二つ改正点があります。まず一つ目は、保険契約者の死亡以外の理由で契約者変更があった場合、その後100万円超の保険金の支払が発生した時に保険会社から税務署に提出される法定調書には、これまでの支払保険料の総額だけでなく、変更後の契約者が払い込んだ保険料の総額も併せて記載するよう義務付けられることになりました。これにより、相続税・贈与税・所得税の課税関係がはっきりすることになります(相続税・贈与税・所得税の課税関係の詳細については、先週のブログをご覧になってください)。

もう一つは、保険契約者の死亡による契約者変更があった場合には、たとえ保険金の支払がなくても支払調書を提出することが義務付けられることになりました。契約者が被保険者であれば保険金の支払が発生しますから、現状でも支払調書を提出しなければならないわけですが、契約者以外の方が被保険者である場合は保険事故が発生していない(つまり、保険金が支払われない)ので、現状では支払調書を提出する必要はありません。

ではなぜこのような改正が入ったのでしょうか。死亡保険金の課税関係を明らかにするだけなら一つ目の改正、つまり支払保険料の内訳を記載すればそれで足りるはずですよね。

これにはもう一つの生命保険課税が関わっているのです。先週はスペースの都合で死亡保険金の支払があった場合の課税関係しか書きませんでしたが、実は契約者が死亡して契約者の変更があった場合は、保険事故がなくてもその生命保険契約自体が相続財産となり、相続税が課税されるのです。

保険契約では契約者は受取人を変更したり、保険契約の内容そのものを変更したり、あるいは解約する権限があります。たとえ契約者が保険金の受取人でなくても、解約すれば契約者として解約返戻金を受け取ることができることから、原則として相続開始時(前の契約者が亡くなった時点)の解約返戻金相当額をもって相続財産として評価し、相続税を計算することになります。

ただ現状ではこの時点では支払調書の提出がされないことから、税務署側ではこのような生命保険契約の契約者変更を必ずしも全て把握できるとは限らず、申告者側でも実際に保険金が支払われるわけではなく、単なる契約者の名義変更ですから、申告しなければならないという意識がない場合もあり、申告から漏れやすくなります。その結果、生命保険契約の解約返戻金相当額の申告漏れ・課税漏れも一部で起こっているようです。

しかしこの改正により、今後は契約者の死亡による変更も税務署で全て把握できるようになりますので、生命保険契約の解約返戻金相当額の申告漏れも完全に捕捉されることとなります。相続対策で加入している生命保険契約は終身保険等で保険金額が大きいものも多いですから、解約返戻金相当額もそれなりの金額となり、税務調査で申告漏れが発覚すると加算税・延滞税も含めた追徴税額はかなり多額になる恐れがあります。今まで以上に申告漏れがないよう気を配らなければなりません。

先週も書きましたが、生命保険は相続対策には欠かせないものです。遺産分割・納税資金の準備・節税、どの視点からでも生命保険は非常に有効なものです。その一方で生命保険は課税関係が複雑で、処理を誤ると思いもがけない課税がなされるというリスクもあります。それに加えて今回の課税強化策もあと2年余りで実施されますから、課税関係をより一層慎重に検討したうえで、生命保険に加入する必要があります。

生命保険の活用方法についてはまた機会を改めて連載しようと考えています。かなりボリュームのある連載になるかと思いますので、税理士としての繁忙期が一段落する来春以降になるかと思いますが、こちらの方もお楽しみになさっていてください。

それでは今週はこの辺で。
また来週お目にかかります。