ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

9月25~26日に行われた将棋の第60期王位戦七番勝負の第7局で木村一基九段が豊島将之王位に勝利し、4勝3敗でついに悲願の初タイトルを獲得しました。46歳3か月での初タイトルは有吉道夫九段の37歳6か月を9歳近くも更新する最年長記録となりました。また、過去のタイトル獲得者で最もプロデビュー(四段昇段)が遅かったのは森けい二九段の21歳11か月でしたが、木村九段のプロデビューは23歳9か月ですから、こちらも2歳近く最年長記録を更新しました。そしてプロデビューから22年6か月でのタイトル獲得も、桐山清澄九段の18年11か月を3年以上更新する最長期間記録となりました。記録づくめのタイトル獲得ですが、苦労人の木村九段がついに「無冠の帝王」を返上し、遅咲きの大輪の花を咲かせました。本当に良かったです。木村新王位誕生おめでとうございます!

それでは本題に入って参りましょう。前回は配偶者短期居住権について解説しましたが、今回からは配偶者(長期)居住権について解説していきます。(長期)が括弧書なのは、民法上は「配偶者居住権」という名称になっているからです。ここからは括弧書は省略して単に「配偶者居住権」と呼んでいきます。なお、「配偶者居住権」は民法上では建物に住む権利を指し敷地の利用権は含みませんが、ここでは特段の記載がない場合は敷地の利用権も含むものとして見ていきます。

配偶者短期居住権は配偶者の当面の居住権をとりあえず確保するものでしたが、配偶者居住権は原則として終身の居住権を確保するものです。配偶者居住権も配偶者短期居住権と同様、令和2年4月1日以後の相続・遺贈から適用になります。それでは具体例で詳しく見ていきましょう。

例えば被相続人の遺産が全部で6,000万円あり、その内訳が自宅とその敷地が3,000万円、預貯金が3,000万円だったとします。法定相続人は配偶者(後妻)と長男(先妻の子)の二人とし、配偶者は引き続き自宅に住む必要があるものとします。現行民法で法定相続分(2分の1ずつ)に従って遺産分割すると、配偶者は自宅とその敷地を相続するだけで法定相続分(2分の1)の3,000万円に達してしまい預貯金を相続することができません。配偶者と長男が実の親子で親子仲が悪くなければ、配偶者に預貯金もある程度相続させるような柔軟な遺産分割も期待できますが、この場合は実の親子ではありませんので、法定相続分の遺産分割で折り合うしかないケースも十分あり得ます。そうすると配偶者は老後の生活資金に困ることも考えられます。

そこで改正民法では自宅とその敷地を所有権と利用権(配偶者居住権)に分け、柔軟な遺産分割を可能にするとともに、配偶者が老後の生活資金も確保できるようにしました。例えば上記の例で所有権が2,000万円、利用権(配偶者居住権)が1,000万円だとすると、配偶者は1,000万円相当の利用権(配偶者居住権)のほかに2,000万円の預貯金を相続できます。長男は2,000万円相当の所有権のほかに預貯金の残り1,000万円を相続できます。これで配偶者は自宅に引き続き居住できるとともに、老後の生活資金も確保できることになります。

長男(先妻の子)や被相続人にもメリットがあります。長男(先妻の子)は配偶者(後妻)が亡くなった後は利用権も含めた完全な所有権を取り戻すことができますので、ゆかりの地が配偶者(後妻)の相続人等の手に渡るのを防ぐことができます。また、被相続人も先祖伝来の地が将来人手に渡るのを心配せずに済むようになります。現行民法ではいったん配偶者(後妻)が相続してしまうと、被相続人が受益者連続信託を活用している等の限られた場合を除き、取り戻す手段はほぼありませんでした。

ただ配偶者居住権でいくつか注意しなければならないことがあります。まず一つ目は、被相続人が相続開始時に自宅建物を配偶者以外の第三者と共有していた場合は、配偶者居住権は認められないということです。したがって、自宅建物が被相続人と配偶者以外の第三者との共有になっている場合は、その共有関係をあらかじめ解消しておくようにしてください。なお、敷地については第三者と共有していても配偶者居住権は認められます。

二つ目は、配偶者居住権の設定は遺産分割の他に遺贈(または死因贈与)でも可能ですが、いわゆる「相続させる」遺言(特定財産承継遺言)ではできないということです。一般的に相続人に対しては、登記が当該相続人単独でできるメリットがあることから特定財産承継遺言が利用されていますが、配偶者居住権については必ず「遺贈する」という文言で遺言書を作成してください。

三つ目は、上記の例で長男が第三者に所有権を譲渡し、その第三者(新しい所有者)から配偶者が立ち退きを迫られた場合に、配偶者居住権の登記をしていないと立ち退きを拒否できなくなるということです。したがって、配偶者居住権の登記(=対抗要件の具備)は速やかに行うようにしてください。なお、登録免許税は建物の固定資産税評価額の0.2%になります。

少し長くなりましたので今回はここまでにいたします。次回も配偶者(長期)居住権について解説していきます。今回は法務的な話が中心でしたが、次回からは税務上の話が盛りだくさんですので、またぜひご覧ください。

それでは今週はこの辺で。
また再来週お目にかかります。