ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

今週からは新連載です。今や相続対策には不可欠となった生命保険について、その活用方法を見ていきたいと思います。まずは基礎編ということで、基本的な事柄について何回かにわたってご説明してまいりますので、よろしくお願いいたします。

相続対策と言えば、真っ先に思い浮かぶのが相続税の節税ですね。もちろん相続税の負担は非常に重いので、相続対策によって相続税額を減らすことはとても大事なことですし、工夫次第で大きな節税効果を得ることができます。

ただ、相続対策で一番重要なのは実は遺産分割です。どんなに素晴らしい節税方法を考えたとしても、その大前提である遺産分割でそもそも揉めるようでは全ては絵に描いた餅になりかねません。最近は「争続」とか「争族」などといった言葉もよく耳にしますが、それだけ遺産分割で揉めることは多いということです。ですから、円満な遺産分割を実現するような相続対策を考えることがまずは最優先となります。

そしてその次に重要なのが納税資金です。相続税の納税は相続開始後10か月以内に現金で一括納付することが大原則です。もちろん延納や物納といった制度も用意されてはいるのですが、それなりにハードルが高く必ずしも認められるというものではありません。その一方で相続財産は現金や預貯金等ばかりとは限りません。比較的換金が容易な上場株式等の金融資産が多ければ良いのですが、不動産など現金化に時間を要するものが多い場合は、納税資金に窮することも多いのです。したがって、納税資金の準備も怠ることはできません。

相続対策の三本柱は遺産分割・納税資金・節税ですが、重要性もこの順番になります。もちろんそれぞれが密接な関連があり、切り離して考えられるものではないのですが、この優先順位は常に頭に入れて相続対策を練る必要があります。そして生命保険はこの3つを一挙に解決してくれる魔法のアイテムなのです。こう書くとちょっと大袈裟な感じがするかと思いますが、あながち間違いではありません。ここからはそのことを具体的にご説明していきたいと思います。

生命保険の活用方法も色々なパターンがあります。順番に御紹介していきたいと思いますが、まずは一番オーソドックスな被保険者が被相続人である死亡保険金について見ていきたいと思います。被保険者である被相続人がお亡くなりになると、保険事故として保険会社から受取人に死亡保険金が支払われます。受取人は通常相続人であることが多いでしょう。

この死亡保険金は民法上は相続財産ではありません。受取人である相続人の固有の財産です。ただ、被相続人が生前保険料を支払い、その結果受取人である相続人に死亡保険金が支払われるのですから、保険会社を経由して被相続人から受取人である相続人に財産が移転しているという意味では、相続財産と同じ効果を持ちます。したがって、相続税法上はみなし相続財産として取り扱われ、相続税の課税対象となっています。

ただ、このような死亡保険金は遺族の生活保障という側面が強いので、まともに課税してしまうことには問題があります。そこで非課税枠というものが設けられており、500万円×法定相続人の数が非課税となります。具体的には、例えば法定相続人が配偶者と子ども2人の合わせて3人だとすると、500万円×3=1,500万円が非課税となります。

したがって、この場合にもし2,000万円の死亡保険金を掛けていれば、そのうち1,500万円が非課税となり、残りの500万円にだけ相続税が課せられるということになります。仮に相続税率が20%だとすれば、現金を持っている場合に比べて1,500万円×20%=300万円もの節税となるのです。非常に大きいですよね。

ただ、最初に述べたようにこの節税効果はあくまでも副次的な効果になります。生命保険が一番威力を発揮するのは遺産分割においてです。相続財産は不動産などきれいに分けることができないものが多いです。かといって、全て共有財産にしてしまうと、それを処分しようと思っても共有者全員の合意が必要となり、争いの火種になります。安易に共有にするのは問題の先送りにしか過ぎません。

そうするとどうしても遺産分割で偏りが生じてしまいます。少なくもらう相続人には当然不満が生じます。そこでその穴を埋めるために生命保険を活用するわけです。つまり、死亡保険金の受取人をその少ない遺産しかもらえない相続人にするわけです。これで遺産分割の公平性を保とうというわけです。

厳密にいうとこの方法も実は問題が生じる可能性があり、ベストの方法は遺産を多くもらう相続人がいったん死亡保険金の受取人となり、その後代償分割という形で少ない遺産しかもらえない相続人にその死亡保険金を渡すというやり方になるのですが、これはちょっと難しい話になるので、この連載の応用編で改めてご説明したいと思います。今日のところは生命保険は節税だけではなく、遺産分割の問題解決にも役立つということを知っておいてください。

また、生命保険は納税資金の準備にも効果的です。死亡保険金は手続きしてから約1週間程度で振り込まれます。預貯金等は名義人が死亡すると凍結されてしまいますが、死亡保険金にはそのようなことがありません。また、納税資金を預貯金で準備するのは相当な覚悟が必要です。よほどの強い意志がないと、使ってしまう誘惑にどうしても駆られます。

それに預貯金の場合は必要額が貯まるまでそれなりの時間がかかります。もしそれまでに相続が起こってしまったら大変ですが、生命保険は加入すればその時から必要額が保障されますので、そういった心配はいりません。預貯金は◢(三角)、保険は■(四角)といいますが、これは預貯金は必要額に達するまで時間がかかるのに対して、保険は最初から必要額を満たしていることを表しています。

今日は長くなりましたのでここまでにします。次回は他のパターンも見ていきますので、またぜひご覧ください。それでは今週はこの辺で。また来週お目にかかります。