ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

札幌は現在さっぽろ雪まつりの真っ最中で観光客で賑わいを見せています。今年は間もなく開業する北海道新幹線の雪像が人気を呼んでいるようです。雪まつり会場は私の事務所から歩いて15分くらいの距離にあるのですが、税理士業務の繁忙期とぶつかるためなかなか見に行くことができません。今年もテレビで映像を見るだけで終わりそうです。

その一方で、インフルエンザが非常に流行っているようですね。人混みの中で感染する可能性もありますので、皆さんも十分気をつけてください。私も外出するときは必ずマスクを着用して予防を心掛けています。

さて本題に入ってまいりましょう。今週も「タワーマンション節税」を取り上げます。前回は2018年(平成30年)から予定されている法令改正により、割増補正率という考え方を使って「タワーマンション節税」に対する課税が強化される方向性であるということを具体的にご説明しましたが、今回は現状でも運用によって既に「タワーマンション節税」に対する課税が強化されているという点について詳しくご説明していきたいと思います。

相続税または贈与税(以下「相続税等」といいます。)を算出するに当たって必要となる相続税評価額は基本的に「財産評価基本通達」というものに従って計算します。土地であれば路線価等を使って相続税評価額を算出し、建物であれば原則として固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となります。

財産評価について相続税法ではこのように規定しています。

(評価の原則)

第22条  この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

他に特殊な財産評価についていくつか相続税法上の条文はありますが、基本的には不動産等の財産評価について相続税法では時価評価するとしか書かれていません。ではその時価はどのように算出すれば良いのでしょうか。寿司屋の時価ではありませんが、これはなかなかの難問です。不動産の評価などは非常に専門性が高く時価評価するのはとても難しいものですし、評価する人によって評価のバラツキが大きくなると課税の公平上も問題が出てきます。

そこで国税庁では1964年(昭和39年)に相続税評価額の具体的な算出方法を詳細に定めた「財産評価基本通達」というものを制定しました。これにより必ずしもその道の専門家でなくても相続税評価額を算出できるようになり、また評価する人による評価のバラツキを防止し、課税の公平性を保つといった効果も狙って作られたものです。

ところで「通達」というのは「法令(法律及び政令並びに省令)」ではありませんので、一般国民は「法令」には拘束されても「通達」には拘束されないというのが大原則です。「通達」に拘束されるのは公務員(税務署の職員等)だけです。

とは言っても現実問題としては、税務調査等の現場で税務署の調査官はこの「財産評価基本通達」に従って相続税等の調査を行いますし、そうすると納税者や税理士も調査官を通じて間接的に「財産評価基本通達」に拘束されるということになります。そもそも「財産評価基本通達」に拠らなければ、どのようにして適正な評価額を算出すれば良いのかという難題が残ります。そこで裁判所も「財産評価基本通達」には一定の法的規範性を認めています。

このように「財産評価基本通達」は50年以上の歴史を経て相続税等の税務の現場では定着しているわけですが、そうは言っても「法令」そのものではありませんから、私たち納税者や税理士にとって絶対的なものというわけでもありません。「財産評価基本通達」の定めに従って算出した評価額が明らかに時価とかい離しているというのであれば、納税者や税理士は「財産評価基本通達」の定めに拠らないで評価額を算出することもあり得ます。この場合はその評価額の根拠となる資料を揃えて税務署に提出することになります。

一方、税務署側でも「財産評価基本通達」の定めに従って算出した評価額が明らかに時価とかい離しているなど不合理があるというのであれば、「財産評価基本通達」の定めに拠らないで評価額を算出することもあり得ます。その根拠となる通達の規定は以下の通りです。

(この通達の定めにより難い場合の評価)
6 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

つまり、「タワーマンション節税」に対してはこの通達の規定(以下「通達6項」といいます。)によって課税することもあり得るということです。昨年10月29日の記者会見でも国税庁はそのような見解を示していて、全国の国税局・税務署にも昨秋以降そのような指示が出されているようです。

もちろん納税者や税理士としてもそう易々と通達6項を適用されては申告納税制度における納税額等の予測可能性が著しく損なわれる恐れがあり、そう簡単に容認するわけにはいきませんが、とは言え行き過ぎた節税を行えば通達6項による否認リスクがあることは常々頭に入れておかなければならないわけです。

納税者が敗訴している裁判例や国税不服審判所の裁決事例もいくつかあり、相続直前にタワーマンションを購入し、相続税の申告納税直後に売却するなどあからさまな租税回避行為(脱税とまではいかないが、異常な取引等により課税を免れる行為)はかえって後で大損をする危険があるということもここで皆さんに知っておいてもらいたいことです。

最後にこの「タワーマンション節税」に絡めて、相続対策のあり方について相続専門の税理士として私なりの考え方について書いておきたいと思います。「タワーマンション節税」自体は前回・前々回とご紹介したようにそれなりに大きな節税効果が見込まれます。ただしやり方を間違えると大きなリスクを背負うことになり、かえって財産を失うことにもなりかねません。

購入の主目的が自分で住む、あるいは純粋に投資物件として人に貸して収益を上げることであり、副次的効果として節税の享受も目指すということであれば良いのですが、節税が主目的で短期間で売買するというのであれば上記のような理由であまりお勧めはできません。まして無理をして多額の借金をして購入するというのは絶対に避けてもらいたいことです。

なぜなら、借金は必ず返済しなければならず、場合によっては購入した不動産を売却して借金を返済しなければならないことも十分あり得るからです。もし不動産市況が下落すると借金だけが残るという結果になりかねませんし、実際にバブル崩壊後にはそうした悲劇が数多く生まれました。財産を失うだけでなく、職を失い家族を失い、命すら失う人もいたわけです。無理に節税しようとしてそのような結果になってしまっては元も子もありません。

相続対策の基本的な考え方としては安全かつ確実に子孫に財産を残すことを最優先にすべきです。そしてその選択肢は皆さんが思っている以上に沢山あります。一つ一つの相続対策は小さなものかもしれませんが、それらをうまく組み合わせることによってとても大きな効果が生まれることも多々あります。

それと相続対策の一点買いは法令の改正等により相続が起こる前にその効果が消滅するリスクがあります。そうなってしまうとせっかく時間と費用をかけて相続対策を行ったとしても徒労に終わってしまうわけですが、いくつもの相続対策を組み合わせておけば仮に一つダメになったとしてもそれほど大きなダメージを受けることはなくなります。リスクの分散という意味でも複数の相続対策を行っておくことは非常に大事です。

相続対策は将来も見据えながら中長期的な計画を立てることがとても重要になります。相続対策は思いつきやギャンブルではありません。信頼できる専門家のアドバイスも受けながら、貴重な財産を守り、大切な家族を守っていってください。私も微力ながら今後もこのブログで相続対策等の有益な情報を提供してまいります。

少し長くなりましたが、3回に渡って連載してきた「タワーマンション節税」については以上になります。来週は業務の都合でお休みします。再来週からはまた確定申告特集と題しまして、以前書きかけになっていた国外財産調書と財産債務調書について、続きを書いていく予定です。次回もご期待ください。

それでは今週はこの辺で。
次回は再来週にお目にかかります。