ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

すっかりご無沙汰してしまい申し訳ありません。ここ最近は落ち着いていた新型コロナウイルス感染症ですが、オミクロン株の出現によりこの冬は第6波の心配が出てきました。引き続き感染症対策を頑張ってなんとか乗り切りたいものです。皆さんも十分にご自愛ください。

それでは本題に入って参りましょう。今月は令和4年度税制改正大綱も発表される予定ですが、その前に令和3年度税制改正についておさらいをしておきましょう。新型コロナウイルス感染症の影響もありそれほど大きな改正はないのですが、それでもいくつか重要なものがありますので当ブログで取り上げていきたいと思います。今回は教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税制度の見直しについてです。平成25年4月1日から始まっている制度で、今回令和5年3月31日まで延長されたのですが、それに併せて見直しが行われました。

まずこの制度の概要についてですが、直系尊属(父母や祖父母等)から信託銀行等との一定の契約に基づき贈与された教育資金については、1,500万円まで贈与税が非課税になるというものです。この制度が始まった当初は非常に反響が大きく、わずか2年あまりで利用額が1兆円を突破し、今年の3月末で利用累計額は約1兆8千億円となっています。その背景としては、教育費は父母や祖父母などの扶養義務者からの贈与であれば従来から非課税なのですが、必要な都度贈与されるものに限られており、将来的な教育費を一括で贈与すると贈与税の課税対象となっていました。しかし可愛い孫のために生きている間にできるだけ多くの教育資金を出してあげたいなどといったニーズがあり、この制度が創設されることとなったわけです。

ただ一方では、贈与者である祖父母等が信託契約等の期間中に亡くなって相続が開始し、使い残した教育資金の残額があったとしても相続税の課税対象とならないことから、必要以上に教育資金を贈与することによって相続財産を圧縮するという相続税対策としてこの制度が利用されているといった批判もありました。そこで平成31年4月1日以後の贈与からは相続開始前3年以内の贈与に係る残額については原則として相続税の課税対象となりましたが、今回の見直しで令和3年4月1日以後の贈与からは3年以内であるか否かに関わらず原則として相続税の課税対象とされることとなりました。

少しわかりにくいと思いますので、具体例でご説明していきます。祖父から孫に平成25年4月1日に700万円、平成31年4月1日に500万円、令和3年4月1日に300万円、合計1,500万円の教育資金を贈与したとします。そして平成25年12月末から毎年100万円ずつ教育資金に充てていったとします。祖父が信託契約期間中の令和4年2月1日に亡くなり、相続が開始した場合に教育資金の残額のうち相続税の課税対象額がいくらになるかを計算します。相続開始日において孫は23歳以上で学校等に在学しておらず、教育訓練も受けていないとします。

まず教育資金の残額は平成25年末から令和3年末までの9年間毎年100万円ずつ使っていますから、累計で900万円使ったことになり、あと600万円が残っていることになります。まず最初に、平成25年4月1日から平成31年3月31日までの贈与に係る残額については相続税の課税対象になりませんから、平成25年4月1日の700万円に係る残額は相続税はかからないことになります。

次に、平成31年4月1日から令和3年3月31日までの贈与に係る残額については、相続開始前3年以内の贈与ならば相続税の課税対象となり、相続開始前3年超の贈与ならば相続税の課税対象にはなりません。平成31年4月1日の500万円については、相続開始日の令和4年2月1日の3年前の日は平成31年2月1日ですから、相続開始前3年以内の贈与となり、その残額は相続税の課税対象となります。

最後に、令和3年4月1日以後の贈与に係る残額については、全て相続税の課税対象となりますから、令和3年4月1日の300万円に係る残額については、相続税の課税対象となります。

つまり、1,500万円のうち700万円は相続税の課税対象とならない贈与、500万円+300万円=800万円は相続税の課税対象となる贈与ということになりますので、残額の600万円を下記のように按分計算することによって、相続税の課税対象額が計算できることになります。先入先出法(先に贈与を受けたものから使うという考え方)ではありませんので、注意してください。

$${(700万円+500万円+300万円)-100万円×9年間}×\frac{500万円+300万円}{700万円+500万円+300万円}=320万円$$

なお、祖父が令和4年5月1日に亡くなった場合は、平成31年4月1日の500万円については、相続開始日の令和4年5月1日の3年前の日は平成31年5月1日ですから、相続開始前3年超の贈与となり、その残額は相続税の課税対象にはなりません。したがって、相続税の課税対象額は下記の通りとなります。

$${(700万円+500万円+300万円)-100万円×9年間}×\frac{300万円}{700万円+500万円+300万円}=120万円$$

このように、贈与時期や相続開始時期によって相続税の課税対象額が変わりますので、十分な注意が必要です。上記のような複雑な事例はあまりないかもしれませんが、思いがけない相続税の課税が生じる可能性もありますので、この制度を利用している又は利用される予定のある方は一度ご確認されることをお勧めします。

それでは今回はこの辺で。次回も令和3年度税制改正について解説しますので、またぜひご覧ください。