ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

今週も相続税の増税についておさらいしていきますね。
前回・前々回は基礎控除額の引き下げについてお話ししてきましたが、今回は税率の引き上げについて書いていこうと思います。
まずは、相続税の速算表をご覧ください。

課税遺産総額

(基礎控除後)

改正前【平成26年12月31日まで】 改正後【平成27年1月1日以後】
税率 控除額 税率

控除額

1,000万円以下

10% 10%

1,000万円超3,000万円以下

15% 50万円 15%

50万円

3,000万円超5,000万円以下

20% 200万円 20%

200万円

5,000万円超1億円以下

30% 700万円 30%

700万円

1億円超2億円以下

40% 1,700万円 40%

1,700万円

2億円超3億円以下

40% 1,700万円 45% 2,700万円
3億円超6億円以下 50% 4,700万円 50%

4,200万円

6億円超 50% 4,700万円 55%

7,200万円

赤い部分が今回税率が引き上げられたところです。
基礎控除額の引き下げよりも税率の引き上げの方が相続税の増税としては理解しやすいですよね。
にもかかわらず、基礎控除額の引き下げの方を先に、しかも2回にわたってお話ししてきたのには理由があります。

前回も書きましたが、相続税増税のなかでも一番影響が大きいのは基礎控除額の引き下げだからなんです。
実は税率の引き上げの影響はかなり限定的です。

国税庁から発表されている最新の申告データ(平成25年分)をみてみますと、課税価格の平均は全国ベースで被相続人1人当たり2億1,362万円、北海道では2億431万円となっています。
これだけ見ると、平均で2億円を超えていますから結構影響があるように見えますよね。
ただ、相続税額は課税価格にいきなり税率を乗じて算出するわけではありません。

ひとつ例を挙げてご説明いたしましょう。
法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人で、被相続人に3億円の遺産総額(課税価格)があるとします。
課税遺産総額はそこから基礎控除額4,800万円を差し引いた2億5,200万円になります。

そしてこれにいきなり税率を乗じるのではなく、まずは法定相続分で分割したと仮定します。
法定相続分は配偶者が2分の1、子どもは2分の1を人数割りしますから、このケースでは4分の1ずつになります。

したがって配偶者の法定相続分は1億2,600万円、子どもたちはそれぞれ6,300万円ずつとなります。そしてここで税率を乗じます。
上の速算表から算出すると、配偶者は1億2,600万円×40%-1,700万円=3,340万円、子どもたちはそれぞれ6,300万円×30%-700万円=1,190万円となります。

そして相続税の総額は3,340万円+1,190万円×2=5,720万円となります。
この5,720万円を実際の相続分で分割し、それぞれの相続人が納付することになるのです。
つまり、実際に相続した遺産が多い相続人ほど多くの相続税を納めるわけですが、どのように遺産分割しても3人で納める相続税の総額が変わることはありません。

もし実際にも法定相続分で遺産分割したのであれば、配偶者の相続税額は3,340万円、子どもたちはそれぞれ1,190万円となります。ただし配偶者は税額軽減の特例があり、法定相続分までは実際の納付額は0円になりますから、最終的には子どもたちだけが1,190万円ずつを納める形になります(配偶者の税額軽減以外の特例等はないものと仮定しています)。

ではなぜこんな面倒な計算をするのでしょうか。
最初から実際の遺産分割を基にそれぞれの相続人が納めるべき相続税額を算出すれば良い感じがしますよね。
これは相続税が超過累進税率であることと深い関係があります。
つまり実際の遺産分割を基に相続税額を算出する制度だと、税率の変わり目を上手く使って相続税額を減らすことが可能になるからです。

先ほどの例でもし実際の遺産分割を基にして相続税額を算出する制度だとしましょう。
そして3人で均等に遺産分割したと仮定します。
そうすると相続税額は3人とも8,400万円×30%-700万円=1,820万円となり、3人合計で5,460万円ですから、遺産分割のやり方を変えるだけで総額で260万円も減らすことができますよね。

この場合は配偶者の税額軽減がありますから、それも考えると得にはなりませんが、もし相続人が子どもたちだけであれば、遺産分割のやり方いかんで実際に納付する相続税額も大きく変えることができてしまいます。
国はそれが嫌なので、まず相続税の総額は法定相続分で遺産分割したと仮定して先に確定させてしまうという今のような制度にしたわけです。

これだと総額は変わりませんし、国としては誰がいくら納めようと全体として相続税を徴収できれば良いわけですからね。この制度を考えた人は頭がいいなと感心します。
まぁ感心ばかりしているわけにもいきませんが(笑)。

この説明でおわかり頂けたのではないかと思いますが、法定相続分に分割した後に税率を乗じるわけですから、上記の例だと課税価格が4億4,800万円を超えてこないと、今回の税率引き上げの影響がないことになります。
配偶者の税額軽減のことも考えると、実質的に納付税額に影響がでてくるのは8億4,800万円を超えたところになります。

上記の国税庁のデータで見てもらった通り、相続税の課税価格は平均2億円をやや上回る程度ですから、4億円台半ばを超える課税価格というのはかなりの資産家ということになります。
今回の税率引き上げに関係がある人は数的にはほんの僅かだと思われます。

もちろんこれくらいの資産をお持ちの方もいらっしゃいますし、会社を経営していれば、中小企業でも優良な会社であれば自社株の評価額がこれくらいになることも十分あり得ます。
関係する人数は僅かですが、もし関係があるということになれば基となる課税価格が大きい分、増税額も相当多くなりますから、もしかなりの資産をお持ちだという方がいらっしゃいましたら、一度新しい税率で試算してみることをお勧めしたいと思います。

税率の引き上げについては以上になります。
3回にわたって相続税の増税についておさらいしてきましたが、いかがだったでしょうか。
改めてその大変さがおわかりいただけたのではないかと思います。

ただ今回の税制改正は増税ばかりではありません。
バランスをとるために、贈与税の方では減税や非課税措置の拡充等も併せて実施されています。
相続から生前贈与へと流れがシフトされ、相続対策の重要性がますます高まったことになりますが、詳細についてはまた次回以降このブログに書いていきたいと思います。

今日も最後まで読んでいただきありがとうございました。
来週は業務の都合でブログは休載します。
それでは今週はこの辺で。次回は再来週にお目にかかります。