ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

今回は今年最後のブログ更新となります。今週からは先月国税庁及び各国税局・国税事務所から発表された相続税・贈与税の税務調査の状況について何回かにわたって見ていきたいと思います。

相続税・贈与税は税務調査が非常に多い税目で、しかも調査が入ると8割以上は追徴される結果となっています。追徴されると本税(相続税・贈与税)だけではなく、加算税(過少申告だと原則10%、無申告だと原則15%)や延滞税(遅延利息に相当するもの。来年(平成29年)は原則として年利率9.0%)も併せて徴収され、ただでさえ大きい相続税・贈与税の負担がますます大きくなります。

そこで、税務調査の実態を正しく知ることによって追徴されない(そもそも税務調査自体を受けない)ような申告のあり方を理解し、余分な税金を払わなくて済むようにしようというのが今回の連載の趣旨になります。

今回公表になった税務調査は平成27年7月から平成28年6月までの間(平成27事務年度)に実施されたものになります。相続税の調査対象は平成25年に発生した相続が中心となります。相続税の申告期限は原則として相続開始日(被相続人が亡くなった日)から10か月後ですから、実際に申告があったのは平成26年のものが多かったと思われます。

ところでなぜ7月から翌年6月までかというと、税務署の年度(事務年度と言います。)は通常の役所のように4月に始まり翌年3月に終わるのではなく、7月に始まり翌年6月に終わるからです。これは税務署の繁忙期と関連しています。皆さんご存知のように所得税の確定申告期限は原則として3月15日です。そして法人税の確定申告期限は会社等の決算月によって違いますが、一番数が多い3月決算法人の申告期限は原則として5月31日です。

従って3月から5月までは税務署に大量の申告書が提出され、それを処理するのに忙しくて人事異動等をしている余裕がないわけです。そういった事情で申告等が一段落した7月に人事異動が行われ、新年度がスタートするのです。少し話がそれましたね。それでは本題に入っていきましょう。

まずは全国ベースの数字から見ていきます。申告漏れ課税価格は実地調査1件当たり2,517万円です。内訳としては現金・預貯金等が一番多く3分の1強を占めています。これにはいくつかの理由が考えられます。

まず一つ目の理由は、相続人が被相続人の財産を全て把握できるとは限らないからです。不動産であれば登記を調べればある程度わかりますが、預貯金の場合は通帳や証書等が残されていないと相続人の方で把握することはかなり難しくなります。特に被相続人に転勤等が多かった場合などは、転勤(単身赴任)先で通帳等を作っている場合もあり、相続人にとっては縁もゆかりもない思いがけない所に財産(預貯金等)が眠っていることもあり得ます。

ではなぜ税務署の方で相続人でさえわからない預貯金等の存在がわかるかというと、税務署は職権で金融機関に被相続人の預貯金等の記録を求めることができるからです。相続人の住所地等の変遷から可能性のある金融機関全てに照会をかけて記録を調べるので、相続人が把握できない預貯金等を把握することができるのです。

ちなみに金融機関では最低10年間預貯金等の記録を保存する義務がありますので、過去10年分の記録は税務署でも抑えていると考えておいた方が良いでしょう。いずれにしても相続人の努力を超えたところの話ですから、これについてはある程度致し方がないと思われます。

二つ目の理由は、生前贈与や名義預金についての申告漏れがあり得るからです。生前贈与については原則として相続開始前3年以内のものは相続財産に加算しなければなりませんが、それが漏れているケースが考えられます。単純ミスの部類にはなりますが、特に基礎控除(暦年贈与の場合、年110万円)の範囲内の生前贈与や住宅取得等資金の生前贈与が漏れやすいのではないかと思われます。

基礎控除の範囲内の贈与については、贈与税の申告をしていない(必要がない)ことから、ついうっかり生前贈与加算を忘れてしまうのではないかと考えられます。住宅取得等資金の贈与については、この後贈与税のところでもお話ししますが、未申告であるにも関わらず非課税の適用を受けているものと勘違いしてしまい、贈与税非課税のものは生前贈与加算の対象にならないことから生前贈与加算を漏らしてしまうのではないかと考えられます。

名義預金とは、おじいちゃんおばあちゃんが幼い孫のために孫の名義で預金通帳を作ってそこにせっせと入金していくというのが典型的なパターンです。もちろん他にも色々なパターンがあるかと思いますが、共通するのは名義人(先の例だと孫)が自分名義の通帳の存在を知らないか、うっすら知っていたとしても自分で管理していない(もちろん自由に引き出せない)という点です。

当然贈与契約書もありませんし、生前贈与が成立していないので、実質的な所有者は被相続人であるおじいちゃんおばあちゃんであり、被相続人の相続財産ということになります。しかし相続人にしてみると名義が被相続人ではないので、相続財産になるとは思いもよらないために申告から漏らしてしまうわけです。

三つ目の理由は、現金の申告漏れがあり得るからです。現金ももちろん相続財産になりますので申告しなければならないのですが、申告金額は相続開始日時点、つまり被相続人が亡くなった日現在の現金有高ということになります。しかし、被相続人が亡くなってから相続税の申告準備を開始するまでにはタイムラグ(時間のずれ)がありますし、その間に葬式費用や病院代などの支払いもあり現金有高は動きますから、相続人が相続開始日現在の現金有高を正確に把握するのは非常に困難です。

本来であれば相続開始前に預貯金等から引き出して手元現金にした金額と、相続開始前後にその現金から支出した金額を丁寧に確認して、相続開始日現在の現金有高を概ね算出する必要がありますが、その作業を怠ってしまった結果、現金を申告しなかったり過少に申告してしまって、追徴されるというパターンに陥るわけです。

少し長くなりましたので、続きは次回にしたいと思います。年をまたいでしまい恐縮ですが、どうかご了承ください。それでは今年1年大変お世話になりありがとうございました。来年も引き続きよろしくお願いいたします。

それでは今週はこの辺で。
皆さん良いお年をお迎えください。