ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

前回将棋の「無冠の帝王」木村一基九段のことを書きましたが、書き足りなかったのでもう少し書きます(笑)。木村九段はプロデビュー(四段)が23歳と、10代でプロになる棋士が多い中で三段リーグを勝ち抜くのに6年半もかかった苦労人です。しかしプロデビュー後はその才能が開花し、2001年度には61勝12敗、勝率8割3分6厘をマークしています。年間60勝以上かつ勝率8割以上を達成したのは他に羽生善治永世七冠(1988年度64勝16敗、8割ちょうど)と藤井聡太七段(2017年度61勝12敗、8割3分6厘)の二人だけです。攻めが好きな棋士が多い中で「千駄ヶ谷(東京将棋会館の所在地)の受け師」の異名を取り、その驚異的な粘りは他のプロ棋士も一目置きますが、実は攻めも切れ味抜群です。解説も軽妙な語り口でいつも私たちを楽しませてくれます。そんな木村九段にあと足りないのはタイトルだけです。王位戦頑張ってください。

それでは本題に入って参りましょう。今回からはその多くが今月(令和元年7月1日)から施行されている改正民法(相続法)と、それに関連する税制改正について連載していきます。相続税の申告等に大きな影響を与えるものもあります。その第一回目である今回は遺産分割に関する見直し等についてです。それでは詳しく見ていきましょう。

1.配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)
婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地(配偶者居住権を含む。)について遺贈又は贈与をしたときは、民法903条3項の持戻し免除の意思表示があったものと推定する。

今回の民法改正では配偶者保護のための改正がいくつか盛り込まれています。上記括弧書きの配偶者居住権(令和2年4月1日施行、後日当ブログで解説予定。)もそうですが、今回解説する持戻し免除もその一つです。

税法的には、上記のケースで居住用不動産等を生前贈与した場合において一定の要件を満たせば贈与税の配偶者控除(最高2,000万円)が受けられ、その部分については生前贈与から3年以内に相続が発生した場合でも相続税の生前贈与加算をする必要はありません。つまり2,000万円までなら無税で贈与できるわけですね。

しかし民法的には従来は原則として持戻しの対象となり、配偶者は遺産を先取りしたものとして、その分遺産分割協議等においてもらえる遺産が少なくなる可能性がありました。これでは長年(20年以上)連れ添った配偶者の生活保障等が不十分になる恐れがありました。そこで今回の民法改正では被相続人が特段持戻し免除の意思表示をしなかったとしても、その意思表示があったものと推定して持戻しの対象から外すこととなりました。

少しわかりにくいと思いますので具体例でご説明いたしましょう。相続人は妻と子の2人、相続財産は預貯金が2,110万円、妻は夫から夫の生前(相続開始前3年以内)に夫婦で居住している土地と家屋(居住用不動産)併せて相続税(贈与税)評価額2,110万円相当の贈与を受けていたとします。贈与税の計算上、基礎控除110万円と配偶者控除2,000万円の合計2,110万円が控除されますから、贈与税はかかりません(申告は必要)。そして相続税においても、配偶者控除2,000万円は生前贈与加算されませんから、預貯金2,110万円+生前贈与加算110万円=2,220万円<相続税の基礎控除4,200万円となって、基礎控除額以下となり相続税もかかりません。

このように税金的にはめでたしめでたしなのですが、遺産分割においては少し様子が変わってきます。従来は税法上どのような処理がされたとしても原則として生前贈与された居住用不動産2,110万円(便宜上、実勢価額は相続税評価額と同額と仮定します。)を相続財産に持戻し計算しますから、相続財産は預貯金2,110万円+居住用不動産2,110万円=合計4,220万円となります。法定相続分は妻と子でそれぞれ2分の1ずつですが、妻は既に居住用不動産2,110万円をもらっていますから、子は預貯金2,110万円を丸々もらえるというわけです。もちろん法定相続分で遺産分割しなければならないという決まりはありませんから、その通りにしなくても良いのですが、親子関係が悪いなどの理由で子に民法上の権利を主張されてしまうと妻(母)としては預貯金はあきらめざるを得ません。そうすると生活資金に窮する恐れも出てきます。

このような事態を避けるために今回このような改正が行われたというわけです。改正後は原則として持戻し計算はしませんから、相続財産は預貯金の2,110万円だけとなり、法定相続分に従って分割すると2分の1(1,055万円)ずつ妻と子がもらえるということとなります。これにより妻(母)の生活保障もできるというわけです。なおこの改正は令和元年7月1日以後の遺贈又は贈与から適用になります。

次回は遺産分割に関する見直し等の続きになります。次回も実務上非常に重要な改正ですので、またぜひご覧ください。

それでは今週はこの辺で。
また再来週お目にかかります。