ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

以前ご紹介した将棋界の「無冠の帝王」木村一基九段のその後ですが、7月末に札幌で行われた王位戦第2局は惜しくも逆転負けしたものの、第3局・第4局と連勝して2勝2敗のタイに持ち込みました。特に第4局は相入玉で285手という凄まじい将棋でしたが、木村九段の駒得が大きかったため豊島将之王位が持将棋(引き分け)にするために必要な点数に達することができず、規定により木村九段の勝利となりました。また、両者は竜王戦でも広瀬章人竜王への挑戦権を争う挑戦者決定戦三番勝負で対戦しており(当記事掲載時点で豊島王位・名人の1勝0敗。)、この夏から秋にかけて最低でも8番、最大で10番(持将棋になった場合を除く。)対局することになりました。将棋界はまだまだ熱い夏が続きそうですね。木村九段には持ち前の粘りでぜひ頑張ってもらいたいと思います。これからも応援しています!

それでは本題に入って参りましょう。今回は遺言制度に関する見直しについてです。遺言制度に関する見直しは大きく分けて2つの項目がありますが、いずれも自筆証書遺言に関するものになります。それぞれ順番に見ていきましょう。


1.自筆証書遺言の方式緩和
相続開始後の共同相続人間等のトラブルを防ぐなどのために推定被相続人(遺言者)が遺言書を作成する場合があります。方式としては自筆証書遺言か公正証書遺言のどちらかが一般的です。それぞれにメリット・デメリットがありますが、公正証書遺言は遺言者が原則として公証役場に赴かなければならず、費用もかかることから自筆証書遺言が選択されることも多いです。ただ、従来は自筆証書遺言はその名の通り遺言者が全て自筆で書かなければならないという煩雑さがあり、その利用を阻害する要因になってきました。

そこで今回の民法改正では、遺言書の本文そのものは引き続き遺言者が自筆で書かなければなりませんが、それに添付する別紙財産目録については遺言者の自筆を要しないこととなりました。具体的にはパソコンで作成したり、通帳等のコピーを添付することも許されるようになります。ただし偽造等の防止のため、財産目録全てのページ(白紙のページも含む。)に遺言者の自署押印が必要である点に注意してください。なお、この改正は平成31年1月13日以後に作成される自筆証書遺言から適用になっています。

2.自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の創設
自筆証書遺言には上記の遺言書の作成以外にも、遺言書を遺言者が自己責任で管理しなければならなかったり、相続発生後は遺言書を発見した相続人等が遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で検認の手続きを経なければならないなど、利用を阻害するリスクや煩雑さがあります。また、押印がされていないなど形式を満たしていないことにより遺言書そのものが無効となるリスクもあります。

そこで今回の民法改正では、法務局で遺言書を預かる保管制度が創設されました。手続きとしては、遺言者がその住所地等を管轄する法務局に遺言書を封をしない状態で持ち込み、保管の申請をします。法務局では自筆証書遺言の方式に適合しているかどうか(本文は自筆で書かれているか、押印はされているかなど。)を外形的に確認し、確認後は遺言書を画像情報化して保存します。相続開始後は相続人等が閲覧や書面(画像情報等を証明したもの。)の交付等を請求することができます。

この制度が創設されたことにより、遺言書を紛失してしまったり、相続人等が遺言書を発見できないといったリスクを回避できるようになります。また、保管されている遺言書については検認手続きが不要になります。さらに、保管申請時に法務局で確認がされることから遺言書自体が無効になるリスクも軽減されます。なお、この保管制度は令和2年7月10日から開始されます。


このように自筆証書遺言の利用がしやすくなりました。遺言により相続トラブルを事前に回避することは相続税の申告の観点からも重要です。申告期限までに遺産分割ができないことになるといったんは未分割として法定相続分等で申告することとなり、その後遺産分割が整った時点で申告等をやり直す(期限後申告・修正申告・更正の請求)という二度手間になる上、当初申告(期限内申告)では配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例等が使えないことから納税額も多額にのぼります。期限内申告を怠れば附帯税(加算税・延滞税)も賦課されます。

相続専門の税理士の立場としては、法律のプロである公証人が作成してくれる公正証書遺言の方を引き続きお勧めしますが、諸般の事情により自筆証書遺言を選択される場合は、上記の保管制度等を上手く利用して、相続トラブルの回避など遺言書作成の目的を達成するようにしてください。

遺言制度に関する見直しについては以上になります。次回も引き続き改正民法(相続法)と、それに関連する税制改正になりますので、またぜひご覧ください。

それでは今週はこの辺で。
また再来週お目にかかります。