ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

先月医師の日野原重明先生がお亡くなりになりました。明治44年のお生まれで105歳の長寿を全うされましたが、凄かったのは生涯現役の医師であったということですね。そして1970年のよど号ハイジャック事件でハイジャック機に同乗していたなど歴史の生き証人でもありました。私も105歳とはいかないかもしれませんが生涯現役の税理士を目指していますので、職業は違えど日野原先生のことは大変ご尊敬申し上げておりました。まさに巨星墜つといった感じで訃報に接したときはとても残念でした。日野原先生、長い間本当にお疲れ様でした。日野原先生の御冥福を心よりお祈りいたします。

それでは本題に入って参りましょう。昨年末から今年にかけて相続に関する重要な最高裁判決が立て続けに出されました。そこで今回はそれらについて詳しく見ていきたいと思います。まず最初は、預貯金の遺産分割についての判例変更です。平成28年12月19日の最高裁判決ですが、報道でも大きく取り上げられましたので、ご記憶の方もいらっしゃるかと思います。

従来の判例(平成16年4月20日最高裁判決など)では、預貯金は遺産分割の対象にならず、法定相続分に応じて当然に分割されるものとなっていました。ただ、相続実務としては預貯金も含めたところで遺産分割協議等を行うのが一般的ですし、金融機関での名義変更手続きについても、遺産分割協議書等が必要とされてきました。また、遺産分割協議等においては不動産など他の相続財産のアンバランスを解消するために預貯金での調整が必要になることも多く、相続人間の合意を得る切り札的な役割を果たしてきました。

このように、判例と実務の間には大きな乖離がある状況になっていましたが、今回の判例変更は預貯金を遺産分割協議等に含める意義を認め、そうした実務を追認する画期的なものとなりました。また、現在民法(親族・相続法)の大幅な見直しも検討されておりますが、そこでも預貯金を遺産分割協議等の対象にすることが明文化される方向です。

次に節税目的の養子縁組についての平成29年1月31日最高裁判決です。こちらは最高裁が初めて判断したものですが、節税目的でも当事者に養子縁組の意思があれば、養子縁組そのものは有効に成立し得るものとしました。こちらも報道で大きく取り上げられましたので、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。

そもそもなぜ養子縁組が節税になるかを先にご説明いたします。相続税の基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数で算定されるため、法定相続人の数が増えると基礎控除額も増えることになります。養子も法定相続人ですから、基礎控除額が増えるわけですね。そして基礎控除額というのは相続財産のうちこの金額までは相続税はかかりませんよという枠のことですから、基礎控除額が増えることによって相続税がかからなくなったり、相続税額が少なくなったりするわけです。

ただ、昭和63年の税制改正で基礎控除額の算定に当たっては養子の数に制限が設けられ、原則として実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までとされました。それまでは制限はなかったのですが、多数の養子縁組による相続税逃れが問題となり、このような制限ができた経緯があります。したがって、現状では養子縁組による節税効果には限りがあります。なお、養子の数の制限はあくまでも相続税の基礎控除額の計算上のことで、養子縁組そのものを制限しているわけではありません。

また、生命保険金や死亡退職金の非課税枠も500万円×法定相続人の数で算定されますから、こちらでも節税効果が享受できます。さらに、相続税の総額計算においても、法定相続人の数が増えることによって適用税率が低くなる可能性があり、節税効果がさらに増すこともあり得ます。なお、養子の数の制限については基礎控除と同様です。相続税の計算方法については、東京税理士会の下記リンクがわかりやすいので参考にしてください。

http://www.tokyozeirishikai.or.jp/general/zei/souzoku/

この最高裁判決によって節税目的の養子縁組も可能であることが認められたわけですが、上記の制限がある上に、他にも様々な問題が起こり得ます。具体的には、法定相続人が増える分、遺産分割協議等がまとまりにくくなりますし、養子縁組後に養親と養子の人間関係が悪化する可能性もあります。養子縁組自体はそれほど難しいものではありませんが、離縁するのは大変です。

離縁は原則として養親と養子双方の合意が必要です。合意に至らない場合は家庭裁判所に調停を申し立てることになり、それでもだめなら裁判ということになります。ただし裁判による離縁は厳しい制限がありますので、必ずしも離縁できるとは限りません。したがって、養子縁組を行うか否かは今まで通り慎重に判断する必要があります。

以上相続に関する重要な最高裁判決を2つご紹介しました。今年は民法(債権法)の120年ぶりの大改正が国会で成立しましたが、来年には民法(親族・相続法)の大幅な改正案も国会で審議される予定になっています。詳細が判明しましたらまた当ブログでお知らせしたいと思いますが、家族のあり方など世の中が大きく変わっていることを実感します。相続はこれからますます難しい時代に入っていきますが、当ブログでも引き続き相続に関するあらゆるトピックを掲載していきますので、これからもぜひご覧ください。

それでは今週はこの辺で。
また再来週お目にかかります。