ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。
ついに本格的な冬将軍がやって来ましたね。先週の大雪は11月としては62年ぶりの豪雪だったとか。今年は初雪も例年より早く冬の到来がいつもより早いことを窺わせていましたが、その通りとなりました。北海道で生きる者の宿命とはいえ3月まで長く厳しい冬をまた過ごさなくてはなりませんが、寒さに負けず頑張っていきましょう。師走ということで年末まで何かと慌ただしい毎日かと思いますが、皆さん車の運転や歩くときの足元には十分注意してください。
12月に入り、来年(平成28年)の税制改正大綱の策定もいよいよ大詰めに入っているようです。今回の税制改正大綱で一番注目されているのは消費税の軽減税率ですが、相続に関係する改正もいくつか入りそうです。詳細が判明しましたらまた随時このブログでお知らせしていきますので、もうしばらくお待ちください。
それでは本題に入って参りましょう。万が一に備えて生命保険に入っているという方も多いかと思います。相続対策においても生命保険はとても有効です。具体的な生命保険の活用方法についてはまた改めて書きたいと思いますが、今日は今年(平成27年)の税制改正で決定された生命保険の課税強化策についてです。
まずは生命保険課税を理解するために必要な基本的知識を皆さんに知ってもらいたいと思います。生命保険契約では保険契約者、被保険者、保険金受取人の三者が決められますが、その他に保険料をだれが負担するかということも生命保険課税を考える上では非常に重要です。通常は保険契約者が保険料負担者となりますが、異なっていても特段問題はありません(例えば子が保険契約者になっている生命保険契約の保険料を親が支払っている場合など)。ここでは話をわかりやすくするために、保険契約者が保険料負担者であるという前提といたします。
そして生命保険金に対しては保険料負担者と保険金受取人との関係によって、相続税・贈与税・所得税のいずれか、またはそのいくつかが課税されます。例えば被保険者が父、保険金受取人が子であるケースを考えてみましょう。父が亡くなると保険事故として保険金受取人である子に死亡保険金が支払われます。この死亡保険金にはどのような税金が課せられるでしょうか。「死亡」となっているのだから相続税だとお考えのかたもいらっしゃるかと思いますが、それほど単純ではありません。誰が保険料を負担しているかによって課せられる税金は変わります。
もっと具体的に言うと、相続税が課せられるのは父が保険料を負担していた場合です。この場合は父から保険会社を経由して子に保険金が相続されたと考えられますので(みなし相続財産といいます)、相続税が課せられます。父が負担した保険料が保険金に形を変えて子に相続されたと考えるわけです。これはわかりやすいですよね。生命保険契約の典型的なパターンで、一番多い形態かと思います。そしていわゆる生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)もこの場合に適用されます。
それでは保険料を父ではなく子が負担していた場合はどうなるでしょうか。この場合は父は保険料を負担していませんので、相続で移転したとみなされる財産はありません。子が自分で保険料を負担して自分で保険金を受け取っていますから、所得税が課せられることになります。「死亡」保険金となっていますが、相続税がかかるわけではないのです。そして子は保険料を支払っている間は毎年、年末調整や確定申告を通じて生命保険料控除を受けることができます。
では保険料を父でも子でもない第三者である母が負担していた場合はどうでしょう。この場合は母から子に保険会社を経由して保険金が贈与されたと考えられますので(みなし贈与財産といいます)、贈与税が課せられます。「死亡」保険金とはいっても母が亡くなっているわけではないので、相続税がかかるわけではありません。
そして保険料を複数の者で負担している場合もあるかと思います。この場合は負担者が誰であるかによって複数の税目が課せられます。例えば上記のケースで父と母と子が3分の1ずつ保険料を負担していたのであれば、保険金のうちそれぞれ3分の1ずつに相続税・贈与税・所得税が課せられることになります。
生命保険課税は基本的にこのような仕組みになっているわけですが、では税務署はなぜ保険金を受け取ったことがわかるのでしょうか。それは100万円を超える保険金が支払われた時は保険会社は税務署に支払調書を提出する義務があるからです。この支払調書によって税務署は保険金の支払を把握し、課税するというわけです。
ただこれでは課税するのに十分だとは言えない面もあります。ここまでご説明してきましたように、生命保険課税は保険料負担者が誰かによって課せられる税目が変わります。現行の支払調書では保険料の総額は記載されますが、誰がいくら負担したかの内訳まではわかりません。そこで税務署は別途銀行情報(保険料の引落状況)などを収集して課税しているものと考えられますが、保険契約者の変更等があった場合は十分に課税しきれないケースもあったようです。
そこで国税庁は平成20年から支払調書の提出義務や記載内容についてより厳格化するよう要望を出してきたのですが、それが平成27年税制改正でついに成就したわけです。平成27年から相続税が増税されたことに伴い相続対策として生命保険がますます活用されることが予想され、税制改正ではそれに対応したと言えそうですが、生命保険課税を強化したいという国税庁の長年の悲願が実現したとも言えます。
新しい支払調書制度の実施自体は平成30年からを予定しておりまだ先ではありますが、来年からは支払調書にマイナンバーの記載が義務付けられ、平成30年からは任意ではありますが銀行口座との紐付けも始まるということで(平成33年からの義務化をめざしているようです)、相続対策等で生命保険を活用する場合は課税関係をきちんと整理した上で実行に移す必要性が今まで以上に高まったと言えるかと思います。
それではその新しい支払調書制度の具体的内容ですが、長くなりましたので続きは来週といたします。次回もお楽しみにしていてください。
それでは今週はこの辺で。
また来週お目にかかります。