ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。
ところで皆さん、鉄道はお好きですか?
先日最後のブルートレインである寝台夜行列車「北斗星」がラストランを終えましたね。
始発駅である札幌駅と終着駅である上野駅では沢山の人が別れを惜しんだようです。沿線でも数多くの人が写真を撮っていたそうです。
「北斗星」には私も深い思い出があります。1988年北海道民の悲願でもあった青函トンネルが開通し、以来27年間「北斗星」は北海道と東京を直通で結んできたのですが、私も1990年の夏、就職活動で北海道と東京を往復するのに何度も利用させてもらいました。もう四半世紀も前のことですが、ついこの間のことのような気がします。
当時は飛行機の便が今ほど多くなく、夏の観光シーズンなどは飛行機のチケットがとても取りにくかったため、鉄道がとても頼りになる存在でした。
確か当時は「北斗星」は3往復していたのですが、開放式のB寝台で廻りの旅行者と歓談したり、食堂車で食事をしたりしながら片道16時間の長旅を楽しんだ記憶があります。
その「北斗星」も切符がとれないことがあり、その時は新幹線の自由席などを乗り継いで青森から今も走っている夜行急行「はまなす」で北海道に帰ったりしていました。「はまなす」も今でこそ寝台車やリクライニングできる座席車を連結していますが、当時は4人掛けのボックスシートでした。通路に新聞紙を敷いて寝てる人とか網棚(!)で寝てる人もいて、まだまだ昭和の香りが残っていました。「はまなす」も廃止の噂があるのですが今後どうなるのでしょうか。
そんな懐かしい思い出のある「北斗星」も、北海道新幹線の開通を控えて廃止となりました。時代の流れとはいえ非常に感慨深いものがあります。「北斗星」には心から感謝しています。25年前は大変お世話になりありがとうございました。27年間大変お疲れ様でした。
少し長くなってしまいましたね。それでは本題に入りましょう。
今日は前回に引き続き7月1日から施行されている国外転出時課税制度の第2弾です。今回は生前贈与編です。
最初に前回のおさらいをしておきますと、①原則として国外転出時において合計1億円以上の対象資産(上場株式、非上場株式、投資信託、国債、地方債、社債等)を所有している②国外転出前10年以内において国内に5年を超えて住所又は居所を有している、という2つの要件を満たしている対象者が、海外への移住や転勤などで国外に出国した場合(非居住者になった場合)には、その対象者に対して対象資産の含み益に係る譲渡所得税が課せられることになるというお話しをしました。つまり、対象者本人が出国した場合の話でしたね。
今回は対象者本人は出国しないのですが、株などの対象資産を生前贈与する場合の話です。
まず対象者についてですが、①贈与時において合計1億円以上の対象資産(上場株式、非上場株式、投資信託、国債、地方債、社債等)を所有している②贈与前10年以内において国内に5年を超えて住所又は居所を有している、という2つの要件を満たしている人が対象になります。国外転出が贈与に変わった以外は前回と全く一緒です。
そしてその対象者が海外に在住している親族等(以下「非居住者」といいます。)に対象資産の全部又は一部を贈与した場合に、その対象者に対してその贈与対象資産の含み益に係る譲渡所得税が課せられることになります。つまり今回は自分が出国するのではなく、元々海外にいる非居住者に株などを贈与した場合、その含み益について譲渡所得税がかかるという話です。
その理由は前回お話ししたのと一緒で、海外にいる非居住者が贈与を受けた株などをその後第三者に売った場合は、その国の税金はかかりますが日本の譲渡所得税はかかりません。
もしその非居住者がシンガポールなどのキャピタルゲイン非課税国に住んでいたとすれば、今までは前回同様やはりキャピタルゲイン課税を免れることができたんですね。
そこで国(日本政府)はこうしたケースでも前回同様、日本の贈与者(あげる側)に対してキャピタルゲイン課税をすることにしたのです。
ここでちょっと疑問を持たれた方もいらっしゃるかと思います。あれっ、この場合贈与税はどうなるんだろう?海外に住んでいる人には日本の所得税はかからないのだから、日本の贈与税もかからないのでは??
贈与税というのは受贈者(もらう側)にかかる税金ですが、基本的には受贈者が非居住者であっても贈与税はかかります。ただ、非居住者はさらに非居住無制限納税義務者と制限納税義務者の2つに分かれます。前者はすべての財産に贈与税が課税されますが、制限納税義務者であれば日本国内の財産にのみ課税されます。したがって、制限納税義務者に対して外国株式などを贈与した場合は贈与税はかからないということになります。
今回は贈与税の話ではないので、非居住無制限納税義務者とはどういった人であるのか、制限納税義務者がどういった人であるのかといった詳しいことはまた後日改めてお話ししたいと思いますが、非居住者については所得税と贈与税(または相続税)では課税上の取扱いが違うということは知っておいてください。
譲渡所得税に話を戻しますと、前回同様、今回も株などを実際に売ったわけではありませんので、納税資金の問題が出てきます。
そこでこの場合も納税猶予の制度が取り入れられています。①譲渡所得税の確定申告期限(原則として贈与翌年の3月15日)までに確定申告書を提出するとともに担保を提供していること②それ以降は毎年原則として3月15日までに継続適用届出書を提出すること③受贈者である非居住者が株などの対象資産を引き続き保有していること、以上3つの要件を満たしている場合は5年間(10年間への延長も可能)納税が猶予されます。前回もご説明した通り、免除ではありませんのでくれぐれもご注意ください。
なお、受贈者である非居住者が5年(期限延長した場合は10年)以内に帰国した場合は、帰国から4か月以内に更正の請求という手続きをとることにより課税が取り消されますので、もし5年(または10年)以内に受贈者が帰国する予定があるのであれば、納税猶予の手続きをする価値はあるように思います。
この5年(または10年)以内の受贈者の帰国による課税の取消しは納税猶予の適用を受けていなくても可能ですが、納税猶予の適用を受けなければいったんは納税しなければなりませんので(その後受贈者の帰国時に還付されることになります。)、納税しないで済ませたいのであれば納税猶予の手続きを踏んだ方が良いでしょう。ただし、見込み違いで5年(または10年)以内に結果として受贈者が帰国できなかったときは納税しなければなりませんので注意してください。
また、受贈者が帰国前に受贈した株などを売ってしまった場合は、その売った部分についてはその時点で納税猶予が終了し、贈与者は納税しなければなりませんので、ご注意ください。この場合は受贈者から贈与者に2か月以内にその旨通知することになっていて、贈与者はその通知によって納税猶予が終了したことを知りますので、納税の手続をとることとなります。
今回は前回と共通する話が多いので、もしわかりにくい部分がありましたら前回のブログも併せてお読みください。より理解が深まるものと思います。
次回は国外転出時課税制度の第3弾として、相続等で海外に住む相続人等に株式などが移転した場合についてお話しする予定です。次回もお楽しみに。
それでは今週はこの辺で。
また来週お目にかかります。