ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

前回予告しましたように、現在行われている参院選の一大争点となっている消費税等の減税について、短期集中連載という形でブログを更新していきたいと思います。今回は前座的な話として、減税の財源の問題について見ていきます。


なお、これまでの繰り返しになりますが、当ブログは特定の政党や政治家を支援するものでもなければ、批判するものでもありません。また、財務省や国税庁を支持したり批判するものでもありません。あくまでも税理士の視点から消費税の減税等の問題について、客観的に解説しています。その点どうかご承知おきください。

減税の話とセットになって必ず出てくるのが財源の問題です。ここでは、減税に伴う赤字国債(以下「国債」といいます。)の発行の是非に焦点を絞って見ていきます。

実は国債の発行は財政法4条1項本文で原則禁止とされています。それではなぜ発行されているかというと、特例公債法という法律で例外的に認められているからです。国債の発行は1975年から始まり、かれこれ50年に渡ってほぼ毎年発行されていますので、例外が常態化していると言って良いでしょう。

国債の発行残高は1,100兆円を超え、GDP(国内総生産)の約2倍という高水準となっています。これは世界的に見ても突出しており、そのため有識者やマスメディアなどでは、日本の財政は「世界最悪の」危機的状況にあるとして、増税や歳出削減により早急に財政再建を行わなければならないという論調が目立ちます。その文脈で、「子孫にツケを回すな!」というフレーズもよく聞かれます。

ただ、それは本当にそうなのでしょうか。財源もないのに減税なんてとんでもないのでしょうか。そもそも国債は財源ではないのでしょうか。ここから少し深掘りしていきたいと思います。

国債というのはいわゆる借金ですので、返す必要があります。それでは全部返す必要があるのでしょうか。形式的にはそうですが、実際には借り換えが行われています。つまり、借り換えが可能な限りは、1,100兆円超を全て返済して零にする必要はなく、必ずしも「子孫にツケを回す」ことにはなりません。

これは日本に限ったことではなく、無借金で国家財政を運営しているという話は聞いたことがありません。緊縮財政で有名なドイツでさえ、国債の発行残高はGDPの60%から80%で推移しています。つまり、国債も立派な財源なのです。

そこで問題になるのが、借り換えが続けられるかどうか、言い換えれば国債の引き受け手があるかどうかです。国債の引き受け手は日銀が5割強で突出しています。2013年に日銀の異次元緩和が始まったときは1割強でしたから、随分と増えたことになります。

実は日銀の国債引き受けも財政法5条本文で原則禁止とされており、その但書で特別の事由がある場合のみ、国会が議決した金額の範囲内で例外的に認められています。原則禁止なのは、通貨(紙幣)発行権を有する日銀が国債を引き受ける財政ファイナンスは、通貨発行量の増加によるハイパーインフレの惹起というリスクがあるからです。

今のところ財政ファイナンスによるハイパーインフレは起きていません。現在の物価高は国際情勢の悪化など複合的な要因によるものであり、財政ファイナンスが主要因ではありません。ただ、現状のままだと将来的にハイパーインフレが起こるリスクもあるため、日銀は今後国債の引受額を減らすこととしています。

それでは日銀に代わる引き受け手はあるのでしょうか。潜在的には十分あると考えられます。まず最初に考えられるのが、海外の政府や投資家等です。現在は6%強にとどまっており、開拓の余地はあるでしょう。ただ、経済安全保障上の観点からあまり増やすのは望ましくないとも言えます。

それでは国内はどうでしょうか。まず個人から見ていくと、国債の発行残高に占める家計の保有割合は1%余りしかありませんが、家計の金融資産は2,200兆円を超えており、預貯金だけでも1,100兆円を超えています。個人向け国債の発行額は最近増加傾向にありますが、それでも年4兆円余りにとどまっており、まだまだ引き受ける余力はあると思われます。

最近NISA(少額投資非課税制度)の利用者が急増していることを考えると、NISAの対象外である
個人向け国債の利子も非課税にすれば、元本割れのリスクがないことも相俟って魅力が増しますので、その発行額を増やすことは十分可能であると思われます。

次に法人ですが、企業の内部留保は600兆円を超え、現預金だけでも300兆円を超えました。こちらも個人同様、引き受ける余力は十分あると思われます。また、銀行や保険会社等の機関投資家の保有割合もこの10年余りで大幅に減少しましたので、利子の非課税化などによる再開拓の余地は十分ありそうです。

以上のことから、国債を減税の財源とすることは十分に可能であると言えます。国債の発行残高が多いということは、それだけ引き受け手があるということあり、日本経済や通貨に対する信用があるということです。信用のない人にお金は貸しません。信用があるから、それだけ多くのお金を借りることができるわけです。「世界最悪」などというのはミスリードにほかなりません。

ただ未来永劫今のペースで国債の発行残高を増やし続けられるかというと、いつかは引き受け手が枯渇しますので、それは不可能です。また、前述の財政法の規定は、戦中戦後の軍事国債等の乱発と日銀引き受け、それらに伴うハイパーインフレの招来(国債等の紙屑化)を反省して設けられたものです。このような歴史的教訓も無視するわけにはいきません。

したがって、余力がある今のうちに減税等で国民の可処分所得を増やし、GDPの6割近くを占める個人消費を活性化させることによって経済成長を実現し、税収を増やしていくという流れを作るべきです。税収が増えれば国債の発行額は減らすことができます。失われた30年が40年、50年になるか否か、正念場を迎えています。

少し長くなりましたが、今回は以上になります。次回からは消費税やガソリン税の減税の是非やそのあり方等について解説していきます。またぜひご覧ください。暑い日が続いていますが、皆さんどうかご自愛ください。