ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。
今年もよろしくお願いいたします。

年末年始は比較的穏やかな天気が続きましたが、今週は大雪からのスタートになりましたね。寒さも戻ってきていよいよ冬本番という様相になってきました。昨年ほどの豪雪にならないことを願うばかりです。

それでは早速本題に入って参りましょう。年末にお知らせしたように、久しぶりに大きい改正となった令和5年度税制改正大綱について詳しく見ていきたいと思います。今回は生前贈与加算(相続税法第19条)についてです。生前贈与加算とは、相続開始前3年以内に被相続人から相続人等に暦年贈与があった場合、その贈与を相続等によるものとみなして相続財産に加算して相続税額を計算するというものです。なお、贈与税額は相続税額から控除されますので、生前贈与加算の規定が適用されると生前贈与がいわばリセットされる形となり、事実上生前贈与がなかったものとして相続税額が計算されることになります。

一般的には相続税よりも贈与税の方が累進課税のカーブが急ですので、相続税額よりも贈与税額の方が多くなることが多いのですが、多額の相続財産をお持ちの方の場合は、相続税額よりも贈与税額の方が少なくなることがあり、生前贈与を行うことによって相続税額を減らすという相続税対策がよく行われます。生前贈与加算の規定は、駆け込みで生前贈与を行うことにより相続税額を減らすという相続税対策に一定の歯止めをかけるという趣旨で設けられています。

今回の改正では、この3年が7年に延びることになりました。報道でも数多く取り上げられていたので、ご存じの方も多いかもしれません。なお延長された4年間の生前贈与については、生前贈与加算額から最高100万円控除できます。つまり、相続開始前3年以内の生前贈与については従来通り全額加算対象となりますが、相続開始前3年超7年以内の生前贈与については、100万円までは加算する必要はなく、100万円を超えた部分が加算対象となります。

今回の改正は、大綱によると令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について適用するとなっています。最終的には改正法令の文言の確認が必要になりますが、大綱を文言通り解釈すると、この改正が実際に適用されるのはもう少し先になるように読めます。

例えば令和7年1月1日に相続が開始した場合、7年前は平成30年1月1日になり、3年前は令和4年1月1日となって、いずれも令和6年1月1日よりも前なので、従来通り3年前の令和4年1月1日以後の生前贈与が加算対象となると思われます。令和10年1月1日に相続が開始した場合だと、7年前は令和3年1月1日で令和6年1月1日よりも前ですが、3年前は令和7年1月1日で令和6年1月1日以後ですので、結局令和6年1月1日以後4年分の生前贈与が加算対象になるものと考えられます。令和13年1月1日に相続が開始した場合だと、7年前は令和6年1月1日で令和6年1月1日以後ですので、令和6年1月1日以後7年分の生前贈与が加算対象になるものと考えられます。この辺りは条文等を確認次第また続報いたしますので、あくまでも現時点での解釈と考えてください。

このように納税者である相続人等にとって厳しい改正となりました。相続税対策の一環として生前贈与の活用をお考えの方は、これまでよりも早めに生前贈与を始めないと、結局生前贈与が徒労に終わる可能性があります。ただ、将来被相続人となる贈与者がどれくらい生きるかによって必要となる生活資金等も大きく変わり、あまり早く生前贈与を始めると自己資金が不足するリスクがありますので、慎重な対応が必要です。

なお、もう一つ3年から7年に延びる影響があります。相続税申告の過程で基礎控除(年間110万円)を超える生前贈与が確認され、贈与税が無申告だったケースです。贈与税の無申告は珍しいことではなく、贈与税の税務調査でも8割超が無申告事案、北海道に限るとなんと97%超が無申告事案です。これは意図的に申告しなかったというよりは、夫婦間や親子間の贈与でも贈与税の申告が必要になる場合があるという認識がないことによるものと思われます。また、住宅取得等資金の非課税制度で贈与税の期限内申告が要件であることを受贈者である相続人が知らなかったというケースもありました。相続税の調査の過程で贈与税の無申告が発覚することが多いものと考えられます。

これまでは、相続開始前3年超で贈与税の除斥期間(≒時効)内であれば、生前贈与加算は必要ないので贈与税の期限後申告だけを行っていました。贈与税の除斥期間は申告期限から6年であり、申告期限は贈与年の翌年3月15日(土・日の場合は次の平日)ですから、約7年前の生前贈与まで贈与税の期限後申告が必要になるわけです。今回の改正によって、相続開始前3年超7年以内の生前贈与についても、相続開始前3年以内の生前贈与と同様に贈与税の期限後申告と相続税の生前贈与加算(及び贈与税額控除)の両方が必要になるケースが増えることになります(参考:相続税法基本通達19-6)。控除される贈与税額は生前贈与加算の対象となる100万円を超える部分に対応する贈与税額に限られるものと考えられます(参考:相続税法施行令第4条)。

例えば令和13年1月1日に相続が開始した場合、前述のように令和6年1月1日以後7年分の生前贈与が加算対象になるものと考えられますので、令和7年1月1日の生前贈与であれば令和8年3月16日が申告期限となり、除斥期間の満了日は令和14年3月16日ですので、令和13年10月31日の相続税の申告期限よりも前に贈与税の期限後申告を行うことが可能であり、その上で相続税の生前贈与加算(及び贈与税額控除)を行うことになります。

ただし、令和6年12月31日の生前贈与の場合は令和7年3月17日が申告期限となり、除斥期間の満了日は相続税の申告期限(令和13年10月31日)より前の令和13年3月17日ですので、相続税の申告準備中に生前贈与が判明した時には既に除斥期間を経過していて贈与税の期限後申告ができない可能性があります。この場合は、生前贈与加算だけを行い贈与税額控除はできないのか、それとも何か所要の措置が講じられるのか、条文等でもし確認できれば続報したいと思っています。

生前贈与加算については以上になります。
次回も令和5年度税制改正について解説しますので、またぜひご覧ください。