ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

昨日も投稿しましたが、一時更新が滞っていたので連投します。これで遅れが取り戻せたかと思います。それでは早速本題に入りましょう。今回も前回に引き続き遺産分割に関する見直し等について詳しく見ていきたいと思います。

2.預貯金の仮払い制度等の創設・要件明確化
(1)家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策(家事事件手続法第200条第3項)
(2)家庭裁判所の判断を経ないで、預貯金の払戻しを認める方策(民法第909条の2)

預貯金はその口座名義人である被相続人が死亡した場合は口座が凍結されて原則として引き出すことができません。実務的には共同相続人間で遺産分割協議が成立すればそれにしたがって引き出すことが可能となりますが、遺産分割協議が成立する前にお金が必要になることもあります。その場合に当該預貯金を引き出すためには実務上共同相続人全員の同意が必要となり、金融機関で所定の手続きをとることとなります。最高裁も平成28年12月19日決定により、預貯金は法定相続分で当然に分割され遺産分割の対象にはならないという従来の判例を変更し、預貯金も遺産分割の対象になるとして上記のような実務上の慣行を認めました。

しかし急ぎでお金が必要な場合もあります。従来は家事事件手続法第200条第2項の規定を使って遺産分割の審判又は調停の手続きの中で、家庭裁判所に預貯金仮分割の仮処分を認めてもらう方法がありました。しかしこれは要件が非常に厳しく、また現実問題として家庭裁判所の手続きを経るだけの時間的余裕がない場合も考えられます。それに急なお金が必要なだけで遺産分割そのものは共同相続人間で円滑に進む見通しがある場合でも、遺産分割の審判又は調停の申立てをしなければならないというのは不合理です。そこで上記(1)(2)の2つの方策が今回新設されました。

(1)は家事事件手続法第200条第2項の「事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるとき」という要件に必ずしも該当しない場合でも、新設された第3項により、「相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により・・・(中略)・・・必要があると認めるとき」という要件を満たせば、他の共同相続人の利益を害するときを除いて預貯金の仮払いが認められることとなりました。要件が緩和され、かつ明確となりました。

ただ(1)の方策はあくまでも遺産分割の審判又は調停の手続きの中で行われる話ですから、これだけでは現実のニーズに対応するには不十分であると考えられます。そこで(2)の家庭裁判所の判断を経ない方策が新設されました。これは相続開始時の各口座の預金残高×1/3×法定相続分の金額までは他の共同相続人の同意を得ることなく単独で預貯金の仮払いを受けることができるというものです。ただし1金融機関につき150万円が上限となります。

例えば北洋銀行の普通預金が600万円、定期預金が900万円の場合において、仮払いを受ける相続人の法定相続分が2分の1であるときは、普通預金が(600万円×1/3)×1/2=100万円、定期預金が(900万円×1/3)×1/2=150万円となりますが、北洋銀行全体では100万円+150万円=250万円となって150万円を超えてしまいますので、仮払いを受けられるのは普通預金と定期預金併せて150万円までです。

仮払いを受けた部分については遺産の一部分割により取得したものとみなされますので、相続税もそのように申告します。家庭裁判所の判断を経ないこの方策は使い勝手が良いですから、かなり利用があるのではないかと思います。
なおこの改正は、令和元年7月1日以後の預貯金仮払いから適用になります。したがって、相続開始日は令和元年7月1日より前でも構いません。

遺産分割に関する見直し等については以上になります。次回も改正民法(相続法)と、それに関連する税制改正についてです。重要な改正が目白押しですので、またぜひご覧ください。

それでは今週はこの辺で。
また再来週お目にかかります。