ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。
この週末は大雪になりましたね。札幌で11月に20cm以上の雪が降るのは2014年から4年連続ですが、これは1950年から1954年までの5年連続以来ということで、実に六十数年ぶりのことになります。また気温が上がって雪は溶けるようなので、根雪になるのはまだもう少し先になりそうですが、いよいよ本格的な冬の到来を感じさせます。今朝は路面がツルツルで歩くのが大変でした。毎年のことではありますが、冬のなり始めは凍結路を歩くのにも慣れていないので、転んでケガをしないように気をつけたいと思います。皆さんも気をつけてくださいね。
それでは本題に入って参りましょう。前回までは広大地評価の改正について、今年いっぱい適用される現行の広大地評価と来年から適用になる新しい広大地評価の内容を詳しく解説してきました。今回の改正では基本的に増税になるケースが多いことが予想されます。それに対して何らかの対策は事前に取れないものでしょうか。今回はそのことについて考えていきましょう。
まず相続・遺贈(死因贈与を含む。)についてですが、被相続人がお亡くなりになるのが今年か来年かが分かれ目になりますので、これはどうしようもありませんね。ただ広大地評価は贈与にも適用になりますから、今年中に生前贈与をして、現行の広大地評価の適用を受けて低い評価額で土地を贈与してしまうというのはどうでしょうか。これは一見節税になりそうですし、相続対策としては良さそうな気がしますよね。もう少し詳しく検討してみましょう。
例えば相続財産の中に路線価2万円、5,000㎡の広大地の要件を満たしている宅地があったとします。現行の広大地評価による評価額は2万円×0.35×5,000㎡=3,500万円になります(他に減額・増額要素はないものとします)。これを今年(2017年)中に生前贈与した場合、贈与税はどのようになるでしょうか。
まず通常の暦年贈与から見ていきます。普通は直系尊属(親や祖父母)から直系卑属(子や孫)への贈与になるでしょうから、直系卑属である子や孫が2017年1月1日現在で20歳以上であれば優遇税率が適用されます。他に2017年中の贈与がないとすると、つまり上記の広大地だけ贈与したとすると贈与税額は(3,500万円-基礎控除110万円)×50%-415万円=1,280万円になります。これはちょっと納税するのは厳しそうですね。土地の贈与であって現金が入ってきたわけではありませんので、受贈者である子や孫は納税資金を別途調達する必要があります。
それにこの贈与の実効税率は約36.6%になりますが、相続税の適用税率が40%以上にならないと生前贈与の方が不利になる計算です。相続税の適用税率40%以上というのは結構な資産家ですので、そうでなければ暦年贈与による生前贈与はお勧めできないということになります。
それでは他に方法はないのでしょうか。実は贈与年の1月1日現在で60歳以上の親や祖父母から20歳以上の子や孫への贈与には暦年贈与だけではなく、もう一つ相続時精算課税制度による贈与という方法があります(長いのでここからは精算課税贈与と略します)。精算課税贈与は暦年贈与とは贈与税の計算方法が全く違います。
暦年贈与では毎年110万円の基礎控除が認められていてこの金額までは贈与税は課税されませんが、精算課税贈与は同一人物からの贈与に係る一生涯の控除額が2,500万円です。税率も暦年贈与であれば累進課税(贈与額が大きくなるほど税率も高くなる課税方法)ですが、精算課税贈与は2,500万円を超えた部分について一律20%になります。そうすると精算課税贈与の場合の贈与税額は(3,500万円-特別控除2,500万円)×20%=200万円になります。暦年贈与に比べるとかなり贈与税額は低くなりましたね。一見良さそうな感じがします。
ただしいくつかの注意点があります。まず精算課税贈与は後日「相続時」に精算する仕組みであるということです。暦年贈与であれば、相続開始前3年以内の贈与でなければ相続には一切関係しません。贈与だけで完結します。それに対して精算課税贈与は贈与財産も相続財産に加算されます。つまり贈与税は相続税の前払いに過ぎないということです。一見贈与税額が上記の例だと1,280万円から200万円へと下がり、1,080万円も得したような気がしますが、実際には相続税への影響も試算してみないと本当に有利になるかどうかはわかりません。
次に精算課税贈与は届出を出すことによって適用を受けることができるのですが、いったん届出を出してしまえば暦年贈与を受けることができなくなります。暦年贈与に後戻りができなくなるのです。したがって今後も生前贈与を予定している場合、特に毎年110万円前後の比較的少額な贈与を今後繰り返し行う予定がある場合は、かえって不利になってしまう可能性もあります。これについても慎重に検討しなければなりません。
また、現行の広大地評価は適用要件が複雑で税務調査で否認されるリスクもかなりあります。明らかに広大地に該当する土地であればともかく、そうでなければ後日巨額の贈与税(加算税・延滞税を含む。)を追徴される可能性もあります。既に生前贈与を準備していて広大地の適用要件について調査も済んでいるのであれば良いのですが、これからとなるとこのブログを書いている時点であと1か月ちょっとしかありません。この短期間で広大地として申告するというのはかなり危険が伴うことは認識しておかなければなりません。
更に小規模宅地等の特例との兼ね合いにも注意する必要があります。相続・遺贈(死因贈与を含む。)であれば相続税の計算上、居住用・事業用・貸付用などで一定の要件を満たした宅地等は一定面積について5割ないし8割の課税価格の減額を受けられる小規模宅地等の特例があるのですが、これは生前贈与には適用がありません。したがって、小規模宅地等の特例が受けられそうな宅地等についてはその点も考慮に入れなければなりません。
以上の結論としては、既に税理士などの専門家のアドバイスを受けて広大地の生前贈与の準備を進めている方はそのまま続けて頂いて良いかと思いますが、それ以外の方は今から広大地の生前贈与をするにはあまりにも時間が少なく、基本的にはリスクが大きすぎてあまりお勧めはできません。否定的なことばかり書いて申し訳ないのですが、これが相続対策の恐ろしさです。思いもがけない影響が出ることがあり、色々な角度から多岐に渡って時間をかけて慎重に検討しなければなりません。無理は禁物です。安易な相続対策はかえって財産を失うことになりかねません。相続対策は安全第一で考えて頂きたいと思います。
新しい広大地評価が適用できるのであれば、評価額の減額幅は現行よりも少なくなりますが、適用要件の明確化により税務調査での否認リスクは格段に少なくなりました。つまり来年からは安心して広大地として申告できるようになるということです。そのメリットは計り知れないものがあると考えています。
今日はかなり長くなりましたが、これで終わりにします。次回はこの連載のまとめを書くつもりです。そしてその次は来年度の税制改正大綱について速報ベースで解説する予定です。当ブログの今年の更新もあとその2回を残すのみとなりました。1年経つのは早いものですね。当ブログでは引き続き有益な情報を提供して参ります。これからもぜひご覧ください。
それでは今週はこの辺で。
また再来週お目にかかります。