ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

将棋の名人戦がついに開幕しましたね。渡辺名人が藤井聡太六冠の挑戦を受けるという先日行われた棋王戦と同じ構図となりました。第1局は藤井六冠が後手番で勝利し、最年少名人、そして羽生九段以来の七冠達成に向けて幸先の良いスタートとなりました。一方渡辺名人は名人を失冠すると無冠になりますので、第2局以降は背水の陣を敷いて臨んでくるはずですし、王将戦での羽生九段のように豊富な経験を武器に色々な戦術を駆使してくることでしょう。第2局以降もとても楽しみです。

それでは本題に入って参りましょう。さる3月22日に令和5年1月1日現在の公示地価が国土交通省から発表されました。全国的に見るとコロナ渦からの回復基調が鮮明となりましたが、北海道はコロナ渦の中でも地価の上昇が続いており、今年はそれが更に加速する形となりました。特に札幌圏の地価高騰が顕著となっています。それでは詳しく見ていきましょう。

まず住宅地ですが、全国平均が+1.4%に対して、北海道は+7.6%で都道府県別で3年連続の上昇率1位となりました。2番目が福岡県の+4.2%ですから、突出していることがわかりますね。コロナの影響が大きく全国平均がマイナス(▲0.4%)になった令和3年でもプラス(1.5%)を維持し、昨年(令和4年)は+4.6%、そして今年(令和5年)は+7.6%と上昇率が加速しています。県庁所在地別で見ても札幌市が3年連続の1位で+15.0%(2番目は福岡市の+8.0%)、昨年も+9.3%と高い上昇率でしたが、こちらはついに二桁に突入しました。北海道新幹線の札幌延伸に向けた再開発がやはり大きいですね。今のところ北海道新幹線の延伸予定は令和12年度末ですので、それまでは高い上昇率が続くものと想定されます。

また、札幌近郊では江別市+27.5%(昨年+16.9%)、恵庭市+26.4%(昨年+17.7%)、北広島市+26.2%(昨年+18.7%)、千歳市+22.5%(昨年+14.8%)、石狩市+20.9%(昨年+13.9%)となっていて、札幌以上に凄まじいことになっていますね。これは札幌の地価が高くなりすぎたので、郊外の住宅需要が高まったものと思われます。北広島の新球場(エスコンフィールド)効果も大きいですね。昨年も異常な上がり方だと思いましたが、今年はそれ以上です。その結果標準地の地点別上昇率の全国トップ10どころかトップ100を札幌圏が独占することになりました。この傾向も暫く続きそうですね。

次に商業地ですが、全国平均が+1.8%に対して、北海道は+4.9%で福岡県(+5.3%)に次いで2番目です。札幌市も+9.7%と、福岡市(+10.6%)に次いで2番目です。住宅地ほどではないですが、こちらも高い上昇率を示していますね。札幌近郊はやはり札幌より凄いことになっており、北広島市+26.7%(昨年+19.0%)、恵庭市+21.3%(昨年+13.2%)、石狩市+20.9%(昨年+13.8%)、江別市+20.8%(昨年+13.1%)、千歳市+18.7%(昨年+12.2%)という結果でした。その結果商業地も標準地の地点別上昇率の全国トップ10を札幌圏が占め、住宅地・商業地ともにトップ10を北海道の標準地が独占するのは、昭和45年(1970年)に地価公示が始まって以来初めてという、記録的な結果となりました。

この結果を受けて気になるのはやはり相続税への影響です。7月に公表予定の路線価も公示地価と同じ令和5年1月1日現在が基準時点になりますし、宅地に関しては公示地価の8割が目途となることから、同様の上昇率になるものと考えられます。したがって、札幌圏に所在する宅地が相続財産に含まれている場合は、相続税の負担も増加していくものと想定されます。

とはいえ古典的な相続税対策、例えば更地にアパートなどの収益物件を借金で建てるなどの方法は、相続税の節税には繋がりますが、人口減少など今後の不動産経営の厳しい見通しを考えると、よほどの好条件でなければ選択しづらいですし、既に居住用や事業用などで利用している土地であれば対策にも限りがあります。可能な節税策を模索しても相続税の負担増が見込まれるようであれば、相続財産の現金化による納税資金の確保も検討に値します。未利用の土地はもちろん、古い建物(アパート等)が建っている土地なども、被相続人が生前のうちに賃借人に立退料など相当の補償をした上で取り壊して更地化しておくなど、売るための準備を早めにしておいた方が賢明なケースもあり得るかと思います。

まだまだ地価が高騰しそうなので今売るのは損だと考えがちですが、所有し続ければ固定資産税・都市計画税の負担増がのしかかります。負担調整措置により急激な負担増が抑えられる仕組みはありますが、地価の高騰に伴い負担が増えていくことに変わりはありません。また、相続開始後の売却(換価分割等)は足下を見られて買い叩かれるリスクもあります。古い建物が残っていたり、まだ立ち退いていない賃借人がいる場合は、取り壊しや立ち退きに伴う費用負担もバカになりません。それらを被相続人が生前に相続財産の中から負担し、時間に余裕を持って好条件での売却を実現し、譲渡所得税等も被相続人が生きているうちに納税しておくことで、相続人に余分な負担をかけないで相続することが可能になります。

また数年前までは地価の下落により年々相続財産に占める土地の割合が低下してきましたが、今後相続財産に占める土地のウエートが高まると、遺産分割の融通が効かなくなり、遺産分割協議が困難になることも想定されます。そのような場合も未利用の土地など相続財産の現金化により流動性を高めておくことは有効です。相続開始後の代償分割も可能ですが、土地を取得した相続人が他の相続人に代償金を支払わなければならないので、その原資が確保できていることが大前提です。地価が高騰すればするほど必要な原資が増加し、その確保が難しくなります。

なお、遺産分割協議を回避する方法として遺言書の作成も検討する価値があります。公正証書遺言が一番確実性が高い方法ですが、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する手もあります。自筆証書遺言書保管制度については以前記事にしましたので、詳しくは下記のリンク先を参照してください。

自筆証書遺言書保管制度が始まりました(その1)
自筆証書遺言書保管制度が始まりました(その2)

相続はいつ発生するかわからないので、将来を予測して遺言書を書くことは非常に難しい作業にはなりますが、まずは案を作ってみることが大事です。一度書いてみると色々な課題が具体的に見えてきます。そしてその案を相続人に計ってみることも大事です。それによって相続人が何を考えているのかが見えてきますし、生前に相続人の納得を得て遺言書を作成しておいた方が、将来相続争いになるリスクを低減することができます。相続人が遺言書の存在を知らないままだと、相続開始後に遺言書の効力自体を争うという事態も起こり得ます。自筆証書遺言はもちろん、公正証書遺言も絶対とは言えません。また、大きく状況が変わった場合は遺言書を書き直すなどの柔軟な対応も視野に入れておくと良いかと思います。

令和5年公示地価に見る地価高騰と相続税等への影響については以上になります。
次回はまた相続に関する記事をアップしますので、またぜひご覧ください。