ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

早いもので激動の2020年も終わりを迎えようとしています。新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続いていて重苦しい年末となってしまいましたが、来年は新型コロナウイルス感染症が早期に収束することを心から願っています。皆さんもどうかくれぐれもご自愛ください。

それでは本題に入って参りましょう。今回は前回の続きで、配偶者居住権の出口課税について具体例で解説していきます。昨年の連載時に使った例をまた使用します。

遺言により被相続人の相続財産である建物及びその敷地に配偶者居住権(配偶者居住権に基づく敷地利用権を含む。以下同じ。)が設定されており、当該建物及び当該敷地の所有権は被相続人の子が取得したとします。相続開始時の当該建物(木造、築10年4か月)の相続税評価額(=固定資産税評価額)が1,500万円、当該敷地(土地)の相続税評価額が2,500万円だとすると、配偶者居住権等の相続税評価額は以下の通りとなります。詳細については、下記のリンク先を参照してください。

平成31年度【令和元年度】税制改正について(その14 民法(相続法)改正関連⑩(配偶者(長期)居住権パート3))


(1)建物
  イ 配偶者居住権
$$1,500万円ー1,500万円×\frac{23年ー16年}{23年}×0.623=12,155,870円$$
  ロ 配偶者居住権が設定された建物(居住建物)の所有権
$$1,500万円ー12,155,870円=2,844,130円$$
(2)土地等
  イ 配偶者居住権に基づく敷地利用権
$$2,500万円ー2,500万円×0.623=9,425,000円$$ 
  ロ 居住建物の敷地の所有権
$$2,500万円ー9,425,000円=15,575,000円$$
ここからが本日のテーマです。その後、相続開始から3年5か月経過後に配偶者(母)が老人ホームに入居することとなり、子が母に対して合意解除により消滅する配偶者居住権の対価を支払う場合には、前回解説した通り、母に譲渡所得税(総合課税)が課税されることになります。被相続人が当該建物を取得した時の取得費が2,500万円、当該敷地の取得費が3,000万円だったとし、子が母に支払った配偶者居住権の対価の額が1,200万円、配偶者居住権に基づく敷地利用権の対価の額が1,000万円だとすると、譲渡所得は以下の通りとなります(計算の便宜上、譲渡費用は割愛します)。

(1)配偶者居住権
イ 収入金額 12,000,000円
ロ 取得費   11,892,809円(下記計算過程参照)

(イ)まず建物に配偶者居住権が設定されていないものとして、取得時から配偶者居住権設定時(本事例の場合は遺言による設定であるため、相続開始時と同じ。以下同様。)までの期間分を建物の取得費から減価します。 
2,500万円ー2,500万円×0.9×0.031×10年(6か月未満切捨)=18,025,000円  

(ロ)次に減価後の建物の取得費を相続税評価額で按分して、配偶者居住権設定時の配偶者居住権の取得費を算出します。
$$18,025,000円×\frac{12,155,870円}{1,500万円}=14,607,303円$$
なお、配偶者居住権の設定登記費用は取得費に加算することができます。
登録免許税額は1,500万円(固定資産税評価額)×0.2%=30,000円ですので、ご自身で設定登記をしたとすると、配偶者居住権設定時の配偶者居住権の取得費は14,607,303円+30,000円=14,637,303円となります(司法書士に依頼した場合はその費用も加算できます)。 

また取得費については、相続開始日から3年10か月以内の譲渡(消滅)であれば相続税額の取得費加算の特例(租税特別措置法第39条)も受けられますが、配偶者の場合は配偶者の税額軽減(相続税法第19条の2)により相続税額が零になることが多いと考えられますので、その場合は取得費の加算はありません(配偶者居住権に基づく敷地利用権についても同様です)。

(ハ)最後に(ロ)の取得費を配偶者居住権設定時から消滅時までの期間(3年5か月→6か月未満切捨→3年)分減額します。これが配偶者居住権消滅時の配偶者居住権の取得費になります。
$$14,637,303円ー14,637,303円×\frac{3年}{16年}=11,892,809円$$
ハ 譲渡所得(特別控除前) イーロ=107,191円

(2)配偶者居住権に基づく敷地利用権
イ 収入金額 10,000,000円
ロ 取得費     9,189,375円(下記計算過程参照)

(イ)まず土地の取得費を相続税評価額で按分して、配偶者居住権設定時の配偶者居住権に基づく敷地利用権の取得費を算出します。
$$3,000万円×\frac{9,425,000円}{2,500万円}=11,310,000円$$
(ロ)次に(イ)の取得費を配偶者居住権設定時から消滅時までの期間(3年5か月→6か月未満切捨→3年)分減額します。これが配偶者居住権消滅時の配偶者居住権に基づく敷地利用権の取得費になります。
$$11,310,000円ー11,310,000円×\frac{3年}{16年}=9,189,375円$$
ハ 譲渡所得(特別控除前) イーロ=810,625円

(3)特別控除後の譲渡所得
107,191円+810,625円
ー500,000円(特別控除額)=417,816円

なお譲渡所得(総合課税)については、取得日から譲渡日(消滅時)までの所有期間が5年以内であれば短期譲渡所得、5年超であれば長期譲渡所得となります。両者の違いは、短期譲渡所得は全額課税されるのに対して、長期譲渡所得は2分の1課税になるという点です。上記の場合だと、短期譲渡所得であれば417,816円をそのまま税額計算に使うのに対して、長期譲渡所得であれば2分の1の208,908円を基礎として税額計算をすることになります。

総合課税の場合は他の所得との兼ね合いなどもありますので、税額計算の基礎となる課税標準額が2分の1になったからといって単純に税額も2分の1になるわけではありませんが、所有期間5年を境にして、短期になるか長期になるかによって税負担が大きく変わる可能性があります。

それでは本事例の場合は、所有期間をどのように計算するのでしょうか。配偶者居住権設定時からはまだ3年5か月しか経過していませんが、配偶者居住権の場合は被相続人の取得日を引き継ぎますので、所有期間は10年4か月+3年5か月=13年9か月>5年となり、長期譲渡所得となります。つまり本事例のように、相続開始時に既に取得日から5年超が経過していれば長期譲渡所得になりますので、短期譲渡所得で課税されるケースはそれほど多くないものと想定されます。


少し長くなりましたので、年内はここまでといたします。年明けから配偶者居住権の出口課税について具体例をもう少し深く掘り下げていきますので、次回もぜひご覧ください。

それでは今年はこの辺で。
皆さん良いお年を。