ホームページをご覧の皆さん、あけましておめでとうございます。
税理士の臼井です。今年もよろしくお願いいたします。
今年最初のブログ更新は前回の続きで、昨年11月に国税庁及び各国税局・国税事務所から発表された相続税・贈与税の税務調査の状況について見ていきたいと思います。
簡単に前回のおさらいをしますと、相続税の申告漏れで非常に多いのが現金・預貯金等であるということと、その理由について実務に携わる相続専門税理士の視点からお話しさせて頂きました。そして申告漏れがあれば当然相続税が追徴されるのですが、追徴税額は加算税込みで1件当たり489万円となっています。延滞税がこれと別にかかってきますから、追徴税額の平均は500万円を超えているものと思われます。結構大きな金額ですよね。
ここまでは全国ベースの数字を見てきましたが、北海道ベースだと1件当たりの申告漏れ課税価格は2,754万円、追徴税額は626万円といずれも全国平均より多くなっています。ただし仮装隠ぺいがあった時に課される重加算税の賦課割合は全国ベースの12.8%に対して北海道は7.0%ですから、悪質な申告除外というよりは単純に基本的なミスによる申告漏れが多いものと思われます。北海道でも現金・預貯金等が申告漏れの約3割を占めています。
ちなみに、財産を隠すなどした場合に課せられる重加算税は追徴税額の35%です。過少申告加算税が原則10%(一定の場合は15%)ですから、このように意図的に過少申告をした場合のリスクは非常に大きいということになります。十分に注意してください。
次に贈与税の税務調査について見ていきましょう。贈与税では無申告が圧倒的に多いという特徴があります。まず全国ベースの数字から見ていきますと、調査対象のうち84.3%が無申告事案です。逆に言えば、申告されるべきものが申告されていないので税務調査が入ったということです。そして申告漏れの約6割を現金・預貯金等が占めています。
これは前回相続税のところでもお話ししましたが、まず住宅取得等資金の贈与の無申告がかなりあるのではないかと推察されます。といいますのも、住宅取得等資金の贈与については非課税制度があるのですが、これは贈与税の申告期限内(原則として贈与年の翌年3月15日まで)に所定の添付書類等と併せて申告をすることが要件になっています。
したがって、申告しなかった場合はもちろん、期限後申告をした場合でもこの非課税制度の適用を受けることはできないのですが、このことを知らない方が結構多く、非課税で納税額がない(ゼロ)なのだから、申告する必要もないと思い込んでしまい無申告となってしまうのです。相続税の配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例についても同様ですが、税法には申告することによって初めて適用が受けられる制度というものがあります。住宅取得等資金の贈与税非課税制度もその一つです。
相続税でも贈与税でもこれらの適用を受けた結果、納税額がゼロになるケースもありますが、だからと言って申告をしなくて良いとはならないのです。なぜなら、税務署では申告がないとその制度の適用要件を満たしているかどうかがわからないからです。要件を満たしていなければ通常通り課税されるということになり、住宅取得等資金の贈与の場合だと暦年贈与課税となって、かなりの金額の贈与税を納付する羽目になります。
もう一つ現金・預貯金等の贈与の無申告が多い理由としては、そもそも贈与の意識があまりないか、あったとしても贈与税の申告納付に思い至らないケースがかなりあるからではないかと考えられます。通常現金・預貯金等の贈与は夫婦間や親子間など身内で行われることが多いですが、その中には生活扶助のものもかなり含まれていると思われます。
生活扶助のつもりで贈与したのであれば、家族はお互いに助け合うのが当然だと考えてのものでしょうから、当事者間に贈与という意識は薄いと考えられます。また、生活扶助の贈与であれば原則として贈与税の課税対象にもなりません。ただしこの場合は、どこまでが生活扶助なのかという線引きが結構難しいです。生活扶助のつもりで贈与したが、実はそうではなかったという場合に無申告となって、税務調査で贈与税が追徴されるということになります。
北海道ベースの数字ではそのことが全国ベース以上に顕著に現れています。調査対象のうち88.1%が無申告事案で、申告漏れのうちなんと95.4%が現金・預貯金等です。北海道では贈与税の無申告のほとんどを現金・預貯金等の贈与が占めているということです。
また、1件当たりの申告漏れ課税価格は全国ベースが540万円であるのに対して、北海道ベースだと1,041万円、そして追徴税額は全国ベースが136万円であるのに対して、北海道ベースだと495万円にもなっています。贈与税は相続税より累進課税の税率上昇カーブがさらにきつくなっていて、負担もその分重くなっています。したがって、申告漏れのリスクは相続税以上に大きいと言うことができます。
現金・預貯金等の贈与はお金さえあれば簡単にできますし、相続対策にもよく用いられているのですが、やり方を間違えるととんでもない結果が待ち受けていることとなります。生前贈与の注意点や申告のポイントなどについてはまた別の機会に当ブログで連載しようと思っておりますが、今日のところは気軽にできる分リスクも大きいということを抑えておいてください。
相続税・贈与税の税務調査状況について以上になります。来週からは新連載です。昨年12月8日に発表された平成29年度税制改正大綱のうち相続に関係するものについて解説していこうと思っています。次回もぜひご覧ください。
それでは今週はこの辺で。
また来週お目にかかります。