ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。
今年もよろしくお願いいたします。
明日から首都圏を対象に緊急事態宣言が再発令されることとなりました。北海道は新規感染者数が一頃より抑えられていることから今回は対象外となりましたが、重症者や死亡者の数が高止まりしていて医療機関も厳しい状況が続いていますので、引き続き厳重な警戒が必要な状況であるものと思われます。新型コロナウイルス感染症・寒波・豪雪の三重苦で厳しい冬となっていますが、皆さんどうかくれぐれもご自愛ください。
それでは本題に入って参りましょう。今回は配偶者居住権の出口課税の具体例の第2回目となります。前回は配偶者居住権の合意解除に係る課税関係を解説しましたが、今回は配偶者居住権が設定されている建物及びその敷地が収用等され、補償金等を受け取った場合の課税関係を解説していきたいと思います。これも十分にあり得るケースですね。
具体例は前回と同じものを使用します。遺言により被相続人の相続財産である建物及びその敷地に配偶者居住権(配偶者居住権に基づく敷地利用権を含む。以下同じ。)が設定されており、当該建物及び当該敷地の所有権は被相続人の子が取得したとします。相続開始時の当該建物(木造、築10年4か月)の相続税評価額(=固定資産税評価額)が1,500万円、当該敷地(土地)の相続税評価額が2,500万円だとします。
その後、相続開始から3年5か月経過後に当該建物及び当該敷地が収用され、配偶者(母)が受け取った配偶者居住権に係る補償金の額が1,200万円、配偶者居住権に基づく敷地利用権に係る補償金の額が1,000万円だとします。被相続人が当該建物を取得した時の取得費が2,500万円、当該敷地の取得費が3,000万円だったとすると、母に課税される譲渡所得税(総合課税)に係る譲渡所得は以下の通りとなります(計算の便宜上、譲渡費用は割愛します)。計算方法及びその結果は前回と全く同じです。詳細については、下記のリンク先を参照してください。
令和2年度税制改正その2(配偶者居住権の出口課税パート2 具体例)
(1)配偶者居住権
イ 収入金額 12,000,000円
ロ 取得費 11,892,809円
ハ 譲渡所得(特別控除前) イーロ=107,191円
(2)配偶者居住権に基づく敷地利用権
イ 収入金額 10,000,000円
ロ 取得費 9,189,375円
ハ 譲渡所得(特別控除前) イーロ=810,625円
(3)特別控除後の譲渡所得(総合課税)
107,191円+810,625円ー500,000円(特別控除額)=417,816円
ここからが本日のテーマです。今回は建物及びその敷地が収用されていますから、その所有者である子にも補償金が支払われます。子が受け取った建物に係る補償金の額が400万円、土地に係る補償金の額が2,500万円だとすると、子に課税される譲渡所得税(分離課税)に係る譲渡所得は以下の通りとなります。建物及び土地は分離課税なので、総合課税のような50万円の特別控除はありません。
(1)建物
イ 収入金額 4,000,000円
ロ 取得費 3,366,566円(下記計算過程参照)
(イ)まず建物に配偶者居住権が設定されていないものとして、取得時から収用時までの期間分を建物の取得費から減価します。
2,500万円ー2,500万円×0.9×0.031×14年※=15,235,000円
※10年4か月+3年5か月=13年9か月→14年(6か月以上切上)
(ロ)次に配偶者居住権の取得費を控除します。ここで一つ注意すべきことは、上記の配偶者居住権の取得費 11,892,809円の算出過程で登録免許税30,000円を加算していたのですが、ここではそれは含めないで計算します。したがって、控除すべき配偶者居住権の取得費は$$14,607,303円ー14,607,303円×\frac{3年}{16年}=11,868,434円$$となりますので、注意してください。
よって、収用時の建物の取得費は15,235,000円ー11,868,434円=3,366,566円となります。
ハ 譲渡所得 イーロ=633,434円
(2)土地
イ 収入金額 25,000,000円
ロ 取得費 20,810,625円(下記計算過程参照)
配偶者居住権に基づく敷地利用権がないものとした土地の取得費から配偶者居住権に基づく敷地利用権の取得費を控除します。配偶者居住権に基づく敷地利用権の取得費9,189,375円の算出過程では配偶者居住権のような登録免許税の加算はありませんでしたので、上記の9,189,375円をそのまま控除します。よって、収用時の土地の取得費は30,000,000円ー9,189,375円=20,810,625円となります。
ハ 譲渡所得 イーロ=4,189,375円
(3)譲渡所得(分離課税)
633,434円+4,189,375円=4,822,809円
なお譲渡所得(分離課税)については、取得日から譲渡日(収用時)の属する年の1月1日までの所有期間が5年以内であれば短期譲渡所得、5年超であれば長期譲渡所得となります。被相続人の取得日を引き継ぐ点は総合課税と同じですが、所有期間の計算方法が総合課税とは微妙に異なります(下線部)。本事例は建物及び土地も長期譲渡所得になりますが、場合によっては配偶者居住権及び敷地利用権が長期譲渡所得(総合課税)であっても、建物及び土地が短期譲渡所得(分離課税)になるケースもあり得ますので、注意してください。
分離課税における短期譲渡所得と長期譲渡所得の違いは、短期譲渡所得の税率(所得税及び復興特別所得税)が30.63%(住民税は9%)であるのに対して、長期譲渡所得の税率(所得税及び復興特別所得税)は半分の15.315%(住民税は5%)であるという点です。総合課税の長期譲渡所得では課税標準の計算上譲渡所得を半分(2分の1)にするのに対して、分離課税の長期譲渡所得では税率が半分(2分の1)になります。
なお、収用等の場合において一定の要件を満たすときは、5,000万円の特別控除が受けられますので、最終的な税額は零となるケースが多いと考えられます。上記の具体例でも収用等の特別控除の要件を満たしていれば、譲渡所得が配偶者(母)、子いずれも5,000万円の範囲内に収まっていますから、ともに譲渡所得に係る税額は零となります。なお、総合課税の場合は①収用等の5,000万円の特別控除②50万円の特別控除の順番で控除します。通常は①のみで譲渡所得は零になるものと思われます。
長くなりましたが、今回はここまでとなります。次回も配偶者居住権の出口課税について具体例を見ていきますので、またぜひご覧ください。
それでは今回はこの辺で。
皆さんくれぐれもご自愛ください。