ホームページをご覧の皆さん、こんにちは。
税理士の臼井です。

寒い日が続いていますね。札幌では年末年始にかけて17日連続で真冬日(最高気温が氷点下)となりましたが、これは近年では2013年1月の19日連続に次ぐ記録だそうです。古くに遡ると約100年前の1921年12月から2月にかけて34日連続というのがあり、1922年の1月は全て真冬日でした。もっと凄いのが1944年12月から1945年2月にかけて61日連続というのがあります。上には上があるものですね。この頃は今ほど暖房器具が発達していないうえに、戦争末期ということもあって想像を絶する大変さだったと思います。先人たちの苦労に思いをはせて、寒さに負けずに頑張りたいと思います。

それでは本題に入って参りましょう。今回は配偶者居住権の出口課税の具体例の第3回目となります。今回は前々回の配偶者居住権の合意解除の後の話です。配偶者居住権消滅後は空き家となり、維持管理の大変さなどを考えて土地建物を売却する方も多いかと思いますが、その場合の課税関係をこれから解説していきたいと思います。

具体例は前々回と同じものを使用します。遺言により被相続人の相続財産である建物及びその敷地に配偶者居住権(配偶者居住権に基づく敷地利用権を含む。以下同じ。)が設定されており、当該建物及び当該敷地の所有権は被相続人の子が取得したとします。相続開始時の当該建物(木造、築10年4か月)の相続税評価額(=固定資産税評価額)が1,500万円、当該敷地(土地)の相続税評価額が2,500万円だとします。

その後、相続開始から3年5か月経過後に配偶者(母)が老人ホームに入居することとなり、子が母に対して合意解除により消滅する配偶者居住権の対価を支払う場合には、母に譲渡所得税(総合課税)が課税されることになります。被相続人が当該建物を取得した時の原始取得費が2,500万円、当該敷地の原始取得費が3,000万円だったとし、子が母に支払った配偶者居住権の対価の額が1,200万円、配偶者居住権に基づく敷地利用権の対価の額が1,000万円だとすると、母に課税される譲渡所得税(総合課税)に係る譲渡所得は以下の通りとなります(計算の便宜上、譲渡費用は割愛します。以下同じ)。詳細については、下記のリンク先を参照してください。

令和2年度税制改正その2(配偶者居住権の出口課税パート2 具体例)

(1)配偶者居住権
イ 収入金額 12,000,000円
ロ 取得費   11,892,809円
ハ 譲渡所得(特別控除前) イーロ=107,191円

(2)配偶者居住権に基づく敷地利用権
イ 収入金額 10,000,000円
ロ 取得費     9,189,375円

ハ 譲渡所得(特別控除前) イーロ=810,625円

(3)特別控除後の譲渡所得(総合課税)
107,191円+810,625円
ー500,000円(特別控除額)=417,816円


ここからが本日のテーマです。配偶者居住権消滅から6か月後に、子が当該建物を1,600万円、当該敷地を3,400万円で譲渡した場合のに課税される譲渡所得税(分離課税)に係る譲渡所得は以下の通りとなります

(1)建物
イ 収入金額   16,000,000円
ロ 取得費     15,031,766円(下記計算過程参照)

(イ)まず建物に配偶者居住権が設定されていないものとして、取得時から譲渡時までの期間分を建物の原始取得費から減価します。 
2,500万円ー2,500万円×0.9×0.031×14年=15,235,000円
※10年4か月+3年5か月+6か月=14年3か月→14年(6か月未満切捨)

(ロ)次に配偶者居住権の取得費を控除します。ここで一つ注意すべきことは、上記の配偶者居住権の取得費 11,892,809円の算出過程で登録免許税30,000円を加算していたのですが、ここではそれは含めないで計算します(前回と同じです)。したがって、控除すべき配偶者居住権の取得費は$$14,607,303円ー14,607,303円×\frac{3年}{16年}=11,868,434円$$となりますので、注意してください。
よって、譲渡時の建物の原始取得費は15,235,000円ー
11,868,434円=3,366,566円となります。

(ハ)子が配偶者居住権の対価として支払った1,200万円は建物の追加取得費となります。ここから配偶者居住権消滅時から譲渡時までの期間分を減価します。これが譲渡時の建物の追加取得費となります。
1,200万円ー1,200万円×0.9×0.031×1年=11,665,200円
※6か月→1年(6か月以上切上)

(ニ)原始取得費と追加取得費を合わせたものが、譲渡時の建物の取得費となります。
(ロ)+(ハ)=15,031,766円

ハ 譲渡所得 イーロ=968,234円

(2)土地
イ 収入金額 34,000,000円
ロ 取得費   30,810,625円(下記計算過程参照)

(イ)配偶者居住権に基づく敷地利用権がないものとした土地の原始取得費から配偶者居住権に基づく敷地利用権の取得費を控除します。配偶者居住権に基づく敷地利用権の取得費9,189,375円の算出過程では配偶者居住権のような登録免許税の加算はありませんでしたので、上記の9,189,375円をそのまま控除します。
よって、譲渡時の土地の原始取得費は30,000,000円ー9,189,375円=20,810,625円となります。 

(ロ)子が配偶者居住権に基づく敷地利用権の対価として支払った1,000万円は土地の追加取得費となりますので、原始取得費に加算します。これが譲渡時の土地の取得費となります。
20,810,625円+10,000,000円=30,810,625円

ハ 譲渡所得 イーロ=3,189,375円

(3)譲渡所得(分離課税)
968,234円+3,189,375円
=4,157,609円

これまで3回に渡って配偶者居住権の出口課税の具体例を見ていきました。実際の数字を見てなんとなく感覚が掴めたでしょうか。ここでは細かい計算方法を皆さんに知っていただくことが目的ではなく、配偶者居住権を設定するに当たって出口課税を考慮する必要があることを理解していただければそれで十分です。相続税の節税だけに目が奪われて拙速に配偶者居住権を設定してしまうと、後で思いがけない出口課税(譲渡所得税または贈与税)を受け、かえって多くの税金を払う羽目になりかねません。配偶者居住権の設定をする際には、将来起こり得る状況を想定して税額をシミュレーションするなど、慎重に検討していただくようお願いいたします。

配偶者居住権については以上になります。次回は配偶者居住権以外の税制改正事項を解説しますので、またぜひご覧ください。

それでは今回はこの辺で。
皆さんくれぐれもご自愛ください。